2021年2月22日

  • 欲しいデータ/コンテンツを取得する際に「場所(IPアドレス)」を指定して取りに行くのではなく、データ/コンテンツの「名前」を指定して取りに行く新しいネットワーク技術と、既存のインターネットが共存するための国際規格が発行されました。

  • この国際規格により、Society5.0 を支える重要な基盤要素であるIoTにおけるデータ通信が効率化され、様々な産業分野でデジタル化が促進されることが期待されます。

1.背景

現在の通信方式は、通信相手となるサーバの場所(IPアドレス)を指定し、常にそこまでデータ/コンテンツを取りに行くプロセスによって成立しています(図1参照)。この仕組みは、サーバ・端末の位置が変わらず、「一対一」の通信であることを前提として構築されたため、現在のようにサーバ・端末が移動し、「一対多」「多対多」の通信となる場面には十分に対応することができないことがあります。このようなケースでは、サーバへアクセスが集中するだけでなく、サーバ・端末の移動に伴いDNS1サーバの経路情報を都度更新する必要があるため、通信量の増加を招く一因にもなっていると指摘されています。今後あらゆるものがネットにつながるIoTが普及すると、500億個ともいわれるIoTセンサ・デバイスから大量のデータがネットに供給され、通信環境がますますひっ迫すると予測されます。

  • 図1図1.サーバのIPアドレスを指定する既存のインターネット

このような課題を解決する「軽量化されたネットワークの仕組み」として、データ/コンテンツに付された「名前」を頼りにネット上にキャッシュ(一時保管)された情報をとりに行く、「情報指向ネットワーク(Information Centric Network;ICN)」技術の研究が各国で進められています。(図2参照)

  • 図2図2.データ/コンテンツの「名前」を指定するICN(イメージ)

このICN技術は、データのヘッダ(宛先情報にあたる部分)を軽量化できる点で、小さいサイズのデータを大量にやり取りするIoTアプリケーションと相性がよく、将来のネットワーク技術として導入が期待されています。

そこで、日本は、将来のICN技術の導入を見据え、ICN技術が既存のIPアドレスを基盤とする通信技術と同一のネットワーク上で共存できるようにするための枠組みの国際標準化を2017年に提案し、国際標準化機関(ISO/IEC JTC 1/SC41)で審議が進められてきました。この度、同提案が、ISO/IEC 30161-1 Data exchange platform for IoT services – Part 1: General requirements and architecture として、2020年11月27日に正式に国際規格として発行されました。

1 ドメインネームシステム(Domain Name System)。ドメイン(住所)とIPアドレスとを紐付けるもの。

2.規格の概要

本規格では、例えば農産物のトラッキングシステム2などの非常に広域かつ多数相互間で利用されるIoTアプリケーション向けに、IPアドレスに縛られないICN技術を導入する上での基盤を規定しています。具体的には、電子メールやインターネットアクセスなどの既存のサービスへの接続を担保しながら、膨大なデータの転送を実現できるIoT DEP(Data Exchange Platform;データ交換プラットフォーム)を定義し、その要求条件を規定しています(図3参照)。主な内容は以下のとおりです。

  • IoTサービスの概要
  • IoTネットワークの構成
  • IoT DEPのネットワークモデル
  • IoTリファレンスアーキテクチャにおけるIoT DEPの位置づけ
  • IoT DEPの機能
  • IoTシステムでのIoT DEPの運用
  • IoT DEPの要件
  • 図3図3.IoT DEPの位置付け
    *1 コンピューターの通信機能を階層構造に分割したモデルISO/IEC 7498、JISX5003
2 農産物のRFIDデータ及び生産者データがサプライチェーンを通して収集され集中管理されるシステム。RFIDは、Radio Frequency Identificationの略で、数ミリから数センチ程度の無線ICチップによりモノや人物を識別・管理するしくみ。ここでのRFIDデータ例としては品種、サイズ、グレード、生産地等がある。

3.期待される効果

IoTは、我が国が目指すべき未来社会の姿として提唱されたSociety5.0を実現するための重要な柱です。本規格の基礎となったIoT DEPについてはまだ研究段階にありますが、この規格がICN技術とともに普及することにより、IoTにおけるデータ通信が効率化され、様々な産業分野でデジタル化が促進されることが期待されます。

具体的な実装例として、上述の農産物のトラッキングシステムのほか、工場での製造工程管理、産業施設のエネルギー管理などが本国際規格の付録に紹介されており、スマートシステムへの応用も期待されています。

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担当

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