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令和3年9月17日

自然環境

令和3年度西之島総合学術調査(9月調査)結果概要について

令和3年9月1日(水)から同年9月10日(金)までの期間に「令和3年度西之島総合学術調査(9月調査)」を実施しました。今般、その調査結果概要を取りまとめましたので、お知らせします。

1.背景
西之島は孤立性が高い海洋島であり、極めて人為的影響の少ない自然環境が存在します。環境省では、平成25年以降の火山活動の影響を受けた西之島の状況を把握するため、令和元年に西之島に上陸し、鳥類、昆虫、植物等に関する調査を実施しました。しかし、令和元年12月以降の火山活動により、生態系が維持されていた旧島の全てが溶岩若しくは火山灰に覆われ、溶岩による新たな大地が形成されました。生物相がリセットされた状態となったことで、西之島は、原生状態の生態系がどのように遷移していくのかを確認することができる世界に類のない科学的価値を有しています。このため、令和3年7月に、主に無人航空機(UAV)による空中撮影や調査機器の設置による陸上調査及び海底の動植物の採取や海中撮影による海域調査を実施したところです。
2.調査概要
令和3年9月1日(水)から同年9月10日(金)まで(うち、調査実施期間は9月3日から9月7日までの5日間)において「令和3年度西之島総合学術調査(9月調査)」を実施しました。なお、西之島は山頂火口からおおむね1.5㎞の範囲に噴火警報(火口周辺)が発令されており、上陸調査が困難であることから、無人航空機(UAV)を用いた陸上の調査を行いました。
現地調査には以下の専門家が参加しました。
・川上 和人(森林総合研究所 鳥類)
・長井 雅史(防災科学技術研究所 地質)
・森  英章(自然環境研究センター 節足動物)
3.調査内容
令和3年の9月調査においては、西之島における生物相の変化や原生状態における海鳥の生態系における機能を評価するため、以下の調査を実施しました。
①UAV空中撮影による地上繁殖性海鳥の生息・繁殖状況及び植物の存在の有無の確認
②UAVに取り付けた吸引機による鳥類の巣材及び周辺の火山礫、火山灰等の火砕堆積物サンプルの採取
③UAVに取り付けた採水機による潮間帯生物環境DNA解析用の海水の採取
④録音装置、自動撮影装置、粘着トラップ、温湿度ロガー等の調査機器の回収・再設置
4.調査結果(概要)

(1)陸域生物
ア.鳥類
①新たな集団について
・セグロアジサシを2集団、アオツラカツオドリを1集団、新たに確認しました。また、数個体の幼鳥を含むカツオドリの繁殖集団を新たに確認しました。船上ではイソヒヨドリ、キョウジョシギが新たに観察されました。
・録音装置により、夜間のオナガミズナギドリの利用(島全体)が新たに確認さ れました。一方、音声は一時的だったため、現状、繁殖はしていないと考えられます。
②繁殖について
・7月の調査ではオオアジサシやセグロアジサシの繁殖集団が確認されていましたが、9月調査では放棄卵が多数確認されたことや、ヒナや幼鳥が数個体しか確認されなかったことから、繁殖成功率が極端に低いと考えられます。
・降雨による濁流の発生や、火山活動に伴う高温の噴気の噴出、巣材不足、地面の高温化などが低い繁殖成功率の原因と考えられます。
③繁殖時期について
・9月調査で確認した繁殖状況から推察すると、西之島のオオアジサシ、セグロアジサシ、カツオドリの繁殖時期は他の地域の個体群や、過去の西之島での繁殖状況と比較して2~3ヶ月遅れているか、または長期化している可能性があります。
イ.節足動物
・7月に内陸に設置した粘着トラップから、カニ2個体、ハエ1個体を確認しました。
・採取した火山灰サンプルには節足動物は確認できませんでした。
ウ.潮間帯生物
・UAVに取り付けた採水機を用いて、海岸沿いの海水を採水しました。今後、環境DNAの分析を試みます。
エ.その他
・UAV空中撮影による映像を確認した結果では、植物の存在は確認できませんで した。
・録音装置、粘着トラップ、温湿度ロガー、自動撮影カメラは回収後に再設置し、来年度の調査で回収を予定しています。
(2)地質
・UAVに取り付けた吸引機を用いて、第4期(令和元年12月~令和2年8月)及び第5期(令和3年8月以降)の噴火活動に伴う火山礫、火山灰等の火砕堆積物サンプルを採取しました。また、海食崖やガリーに露出した噴出物断面について船上から遠望観察を行いました。
・第4期の噴火活動による火砕堆積物は、北部で厚く(海岸部で約5m)、南部で薄い(海岸部で約1m)傾向が見られました。また、下部のスコリア礫を含む火山灰層と上部の成層構造が発達した火山灰層とに大別されることが確認できました。
・第5期の噴火活動による火砕堆積物は、細粒な火山灰層であることが確認できました。また、北部を中心に堆積しており、北海岸部で数cm程度の厚さがある一方、南海岸部には存在しない可能性があります。
・第4期及び第5期の火砕堆積物サンプルには、本質マグマ物質の可能性が高い褐色や黒色のスコリア片(発泡した火山ガラス粒子)が多く含まれており、その他に類質混入物の可能性が高い赤褐色のスコリア片、灰色の溶岩片や白色の変質岩片などが見られました。
5.今後の予定
・今回の調査で収集したデータ及び試料については、今後、各分野の専門家が調査結果を詳しく解析することで、現在の西之島の生態系の状況を明らかにしていく予定です。
・本年度中に、専門的見地から西之島の生態系の遷移過程の評価やモニタリングの方法等について、助言を得るため、「西之島モニタリング委員会(仮)」を開催予定です。本委員会において、令和3年度の調査結果を踏まえた西之島の科学的価値の取りまとめを行う予定です。

関連情報

過去の報道発表資料

令和3年8月27日
令和3年度西之島総合学術調査の実施について

連絡先
環境省自然環境局自然環境計画課
代表 03-3581-3351
直通 03-5521-8274
課長 堀上  勝 (内線 6430)
課長補佐 羽井佐幸宏 (内線 6435)
審査官 守  容平 (内線 6492)
係長 橋口 峻也 (内線 6439)
関東地方環境事務所国立公園課
代表 048-600-0816
課長 井上 綾子
専門官 小林 峻大

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