内閣府・新着情報

日時

2022年7月4日(月)10:00~11:55

場所

消費者委員会会議室・テレビ会議

出席者

(構成員)
【会議室】
後藤座長
【テレビ会議】
黒木座長代理
木村委員
(オブザーバー)
【会議室】
中川丈久 神戸大学大学院法学研究科教授
【テレビ会議】
大石委員
丸山絵美子 慶應義塾大学法学部教授
川出敏裕 東京大学大学院法学政治学研究科教授
山本和彦 一橋大学法学部教授
(参考人)
【テレビ会議】
渡辺 諭 法務省民事局参事官
田中 亘 東京大学社会科学研究所教授
(事務局)
加納事務局長、渡部審議官、友行参事官

議事次第

  1. 開会
  2. 会社法の解散命令制度の活用等についてのヒアリング
  3. 閉会

配布資料 (資料は全てPDF形式となります。)

≪1.開会≫

○友行参事官 皆様、本日はお忙しい中お集まりいただきまして、誠にありがとうございます。

ただいまから、消費者委員会第38回「消費者法分野におけるルール形成の在り方等検討ワーキング・グループ」を開催いたします。

7月1日付で、事務局に人事異動がございました。

前任の太田に代わりまして、私、友行が参事官として着任しております。

これからどうぞよろしくお願いいたします。

本日は、後藤座長、中川委員は会議室にて御出席、その他の委員の皆様は、テレビ会議システムにて御出席です。

議事に入る前に、配付資料の確認をさせていただきます。

お手元の議事次第に配付資料を記載しております。

もし不足等がございましたら、事務局までお知らせください。

なお、本日の会議は、ウェブ会議による開催となります。感染症の拡大防止の観点から、報道関係者を除く一般傍聴者の皆様には、オンラインにて御参加いただいております。議事録については、後日公開いたします。

次に、ウェブ会議による開催に当たりまして、お願い申し上げます。

1つ目に、ハウリング防止のため、御発言いただく際以外は、マイクをミュートの状態にしていただきますようお願いいたします。

2つ目に、御発言の際は、チャットでお知らせください。座長に御確認いただきまして、発言者を指名していただきます。指名された方は、マイクのミュートを解除して、冒頭でお名前をおっしゃっていただくようにお願いいたします。御発言の際、配付資料を参照する場合には、該当のページ番号も併せてお知らせいただきますようお願いいたします。

なお、御発言の際には、可能であれば、カメラのマークをオンにしていただけましたら、どなたがお話しになっているか分かりやすくなりますので、できれば御協力をお願いいたします。

3つ目に、音声が聞き取りづらい場合などには、チャットで「聞こえない」などと記入していただき、お知らせいただくようお願いいたします。

それでは、後藤座長、以降の議事進行をよろしくお願いいたします。


≪2.会社法の解散命令制度の活用等についてのヒアリング≫

○後藤座長 座長を務めております、後藤と申します。

本日もよろしくお願いいたします。

それでは、本日の議題に入らせていただきます。

本日の会合では、会社法の解散命令制度を取り上げ、制度の概要等についてヒアリングを行いたいと思います。

本日の進行ですが、前半では会社法の解散命令制度の概要と近年の運用状況について、法務省へのヒアリングを行いたいと思います。

後半では、解散命令制度の現状に対する評価及び活用について、田中教授にヒアリングをさせていただきます。

それでは、早速、前半の議題に入りたいと思います。

本日は、参考人として、法務省民事局の渡辺参事官に御参加いただいております。

本日は大変お忙しい中、ありがとうございます。

それでは、10分程度で御説明いただきますようお願いいたします。

○渡辺参事官 ただいま御紹介いただきました、法務省民事局参事官の渡辺でございます。

それでは、会社法上の解散命令について、御説明差し上げたいと思います。

事前に資料を御提出させていただいておりますが、3枚物のスライドがございますので、そちらを御覧いただければと思っております。

1枚目のスライドに基づいて御説明させていただきたいと思います。

まず、解散命令の根拠条文でございますが、ここに掲げております会社法第824条第1項となります。

解散を命ずるのは裁判所になりますので、行政指導とか行政上の処分といったものではなくて、司法手続ということになります。

申立てをすることができますのは、ここに書いてありますとおり、法務大臣、株主、社員、債権者その他の利害関係人とされております。

行政上の処分ではございませんので、民間主導で司法手続が進んでいくこともあるということでございます。

解散命令の要件といたしましては、まずはここに掲げられている1号から3号の要件です。

すなわち、1号として、会社の設立が不法な目的に基づいてされたとき。

2号として、会社が正当な理由がないのに、その成立の日から1年以内にその事業を開始せず、又は引き続き1年以上その事業を休止したとき。

3号として、取締役等の業務執行者が会社の権限を逸脱し、もしくは濫用する行為、又は刑罰法令に触れる行為をした場合において、法務大臣から書面による警告を受けたにもかかわらず、なお継続的に、又は反復して当該行為をしたときのいずれかの要件を充足した上で、更に「公益を確保するため会社の存立を許すことができないと認めるとき」という要件が満たされる必要があることになっております。

さらに、会社法第826条において、裁判所その他の官庁、検察官又は吏員は、その職務上、第824条第1項の申立て、又は同項3号の警告をすべき事由があることを知ったときは、法務大臣にその旨を通知しなければならないとされているところでございます。

以上が基本的な条文かと思っております。

手続の大ざっぱな流れにつきましては、1枚目のスライドの下に図を示させていただいております。

まず、関係官庁から法務大臣に対して、会社法826条に基づく通知が行われまして、それを受けて、法務大臣が対象会社に対して、824条1項3号に基づく書面による警告をし、それでも違反行為をやめないといった場合には、裁判所に対して、この会社に関する解散命令の申立てを行うという流れが一つございます。

それ以外にも、先ほど申し上げましたとおり、株主、債権者その他の利害関係人も解散命令の申立てをすることができますので、必ずしも法務大臣からの申立てのみというわけではないということでございます。

申立てを受けた裁判所は、対象会社から陳述を聴取したり、法務大臣の意見を聴取するなどして審理を進めて、要件に該当すれば解散命令を発し、該当しなければ却下することになろうかと思われます。

解散命令が出されますと、その旨の登記がされるとともに、裁判所によって清算人が選任されまして、清算手続に入ることになります。

清算人によって現務の結了、債権の取立て、債務の弁済、残余財産の分配などの清算事務が行われ、仮に当該会社の財産がその債務を弁済するのに足りないことが明らかになった場合、要するに債務超過という場合でありましたら、清算人によって破産手続開始の申立てが行われて、その場合には破産手続に移行していくことになります。

2枚目のスライドを御覧いただければと思います。

解散命令についての要点を簡潔にまとめさせていただいたものでございます。

解散命令といいますのは、会社制度が濫用され、会社の存立・行動が公益を害し、法によって法人格が付与された実質的な根拠を有しない場合に、強制的に法人格を剥奪するものでございます。

もう少し付け加えて御説明いたしますと、我が国は、会社法上の会社の設立については、準則主義を採用しております。すなわち、会社として法人格を付与するに当たり、行政機関の認可といったことは必要とされておらず、法律の要件を満たしていれば法人格を与えるという建前を取ってございます。

そうなりますと、行政機関の関与しないところで違法なことをする会社が現れる可能性があり、その中には法人格を付与するのに値しないものもあり得るかと思われます。

そのような事態に対処するために、解散命令という制度があるということになろうかと思われます。

もっとも、法人の側からいたしますと、解散命令は、強制的に法人格を消滅させられる制度でありまして、言わば死刑判決などと表現されることもあるようです。

これが認められると、一方的に解散の登記がされて、裁判所によって清算人が選任され、法人格の消滅に向けて動き始めるというものでございますので、行政上の指導とかそういったものと比べますと極めて強力な効果があるものかと思われます。

そのようなものでもありますため、要件についても厳格なものとなってございます。

先ほど少し申し上げましたが、会社法824条第1項の1号から3号のいずれかに該当することの他に「公益を確保するため会社の存立を許すことができないと認めるとき」という要件を満たす必要があるということでございます。

「公益を確保するため会社の存立を許すことができないと認めるとき」という要件につきましては、解散命令は、法人格を剥奪するという極めて重い効果があるものでありますため、それ以外の方法、例えば業務執行役員の解任、損害賠償、刑罰、営業の停止、免許の取消しその他の制裁を科すことによって、公益を確保し得るような場合には、この要件を満たさないと一般的には言われているところでございます。これは、解散命令という制度が、言わば最後の手段として、これによらなければ公益を確保することができない場合に認められているという考え方に基づくものかと思われます。

続きまして、先ほど少し御説明させていただいた会社法826条の規定の趣旨でございますが、法務大臣は、解散命令の申立権者の一人であるとともに、会社法824条1項3号の解散命令事由の要件となる、警告の発信主体でございますが、先ほども少し御説明したとおり、会社の設立につきましては、準則主義を採用していることもございまして、法務省は、会社法を所管してはいるものの、各会社を監督したり、業規制をかけているものではございません。したがいまして、個々の会社に対する情報といったものを十分に持っているものではないということでございます。

そこで、事業を所管するなどして、個々の会社の状況を知り得る関係省庁において、解散命令を申し立てるべき事由があると判断した場合には、法務大臣に対して通知をすることにされたのが826条ということになります。

そして、法務大臣としては、通知を受けた場合に、公正・中立な立場で要件該当性を判断し、解散命令の申立てや警告をしていくかどうかを決していくことになろうかと思います。

先ほど申し上げましたとおり、解散命令は、会社にとってみれば、言わば司法手続による死刑判決と評されるようなものでございますので、公正・中立な立場で解散命令の申立ての要否等を判断していくことが求められていくものかと思われます。このような仕組みでありますため、一般的に、会社法上の解散命令に関する規定を根拠として、法務大臣に、各会社に対する調査権限が認められるわけではないと解されております。

また、解散命令が司法手続であり、要件を主張・立証していかなければならないということでございますので、通知をする官庁等は、事実を立証するだけの証拠等をそろえて通知をする必要があると解されているところでございます。

以上が、解散命令制度の大ざっぱな概要となります。

続きまして、3枚目のスライドを御覧いただければと思いますが、ここ数年の解散命令制度の運用状況でございます。

まず、あらかじめお断りしておかなければいけないことといたしまして、解散命令は、先ほど来御説明させていただいておりますとおり、司法手続でございますので、法務省として全ての事案を詳細に把握できているわけではございません。申立権者の一人であるということと、一定の場合には、裁判所から通知等を受ける立場でございますので、そういった観点から、法務省として把握しているデータをお示しさせていただくものでございます。

平成27年以降のデータをお示ししておりますが、申立状況は、3枚目のスライドにあるとおりでございまして、合計いたしますと9件の申立てがあったことが確認できております。

そのうち、解散命令が発令されたものは1件、却下されたものは1件でございます。

残りがどのように処理されたかというところにつきましては、制度上、全て知り得る立場ではないので、詳細はなかなか分からないということにはなりますが、恐らく、多くが取下げで終了しているのではないかと思われるところでございます。

なお、平成27年以降、法務大臣による申立てはないということでございます。

続きまして、会社法826条に基づく通知でございますが、こちらにつきましても、平成27年以降はないところでございます。

私からの説明は、以上でございます。

○後藤座長 どうもありがとうございました。

それでは、これより20分程度、質疑応答の時間とさせていただきます。

ただいまの御説明及び御報告を踏まえ、御質問、御意見等がある方は、御発言をお願いいたします。

御発言をされる際には、チャット欄に御投稿ください。

よろしくお願いいたします。

中川委員、よろしくお願いいたします。

○中川委員 中川でございます。

御報告ありがとうございました。

私は、制度についてよく存じ上げておりませんので、初歩的な質問をさせていただきたいと思います。

まず、登記情報が正確でない場合、すなわち登記はあるのだけれども、実際にどこに代表者がいるか分からないような会社も想定しているのか、そういうものに対しての解散命令は、実務上、可能なのかということです。いろいろと悪さはしているのだけれども、現在の所在がはっきりしない、責任者がどこにいるか分からない場合に、そもそも解散命令を出し得るのかということです。

もう一つは、解散命令が出たのだけれども、また違う会社を作っている場合に、解散命令がうまく機能するのかということです。例えば、解散命令による解散登記において解散事由として裁判所の決定があったと書かれるので、「この会社の関係者は、一度解散させられた会社の関係者だ」ということが、行政当局、あるいは登記をうまく調べることができる人であれば分かるように、経歴を洗い出すのに解散命令が使えるか。会社を作り変えるような人たちについて、かつてそういうことがあったのかというのをたどるために、解散命令、解散登記が使えそうか。

漠然とした質問ですが、この2点をお願いしたいと思います。

○渡辺参事官 よろしいでしょうか。

○後藤座長 お願いいたします。

○渡辺参事官 まず、所在がはっきりしないような会社に対して解散命令が使えるかどうかというところかと思いますが、解散命令につきましては、先ほど御説明した要件に当たるかどうかというところですので、何か刑罰法令に触れるとか、そういったことをしていれば使えるということになろうかと思います。

代表者の所在がはっきりしないだけで使えるかというと、そこはなかなか厳しい部分もあるのかなという気はしますが、もちろん、前提として、恐らく、何かいろいろと悪さをした上で逃げ回っているようなことを想定されているのかなと思いますので、前提となる悪さといいましょうか、刑罰法令に触れるとか、違法なことを繰り返しているといったところを捉まえて、この制度の対象にしていくことはあり得るのかなと思っているところでございます。

2点目は、恐らく、取締役とかそういった首謀者的な悪いことをした人がおられて、そういった人がこの会社ではない、また別の会社を設立して、何か悪さをしようとしている場合に、何か追及できることはないかという趣旨のお話かと思いますが、もちろん、会社は別々の法人格ですので、違う法人格を使った以上、直ちにそれだけでどうこうなるかという問題はあろうかと思います。

ただ、実際、ある会社に解散命令が発令されて、その旨の登記をされたこと自体は登記簿上、記録が残りますので、そういった登記簿等を見ていただければ、その当時の役員とか、そういったところもある程度の情報が取れるということになるかと思いますので、そういったものがどのように役立てられるのかというところは、私も必ずしも十分な知見があるわけではありませんが、そういった登記情報が何かしらに使われることはあり得るのかなと思っております。

○中川委員 ありがとうございました。

○後藤座長 どうもありがとうございました。

それでは、丸山委員、よろしくお願いいたします。

○丸山委員 私から、教えていただきたいこととしましては、まず、会社法824条1項の3号の解釈と運用面なのですが「法務大臣から書面による警告を受けたにもかかわらず、なお継続的に又は反覆して当該行為をしたとき」とあるのですが、実務的には、書面による警告を出してからどのぐらいの期間というか、時間をかけてそういった経緯を見ていくことになるのか、何か実務的な相場みたいなものがあったら教えていただきたいというのが1点目の質問になります。

2点目としましては、824条1項3号に関してなのですが、刑罰法令に触れる行為は、かなり厳格に解されているのか、罰則の対象となるような行為に限定されるのか。

消費者法令の場合については、罰則に結び付くものと行政処分だけのものとかがあると思うのですが、この辺りは刑事罰あるいは罰則に当たるものに限定されるのか、その辺りの解釈について教えていただければと思いました。

○渡辺参事官 1点目は、824条1項3号の運用の相場感の御質問かと思いますが、こちらは先ほども少し御説明したとおり、ここ数年、法務省からの3号に基づく申立ての実績がございませんので、実際のところ、どれぐらいの相場感で動いているのかというのは、なかなか御説明が難しいところでございます。

2点目の刑罰法令に関しては、文字どおり刑罰法令ということになろうかと思います。

もちろん、刑法犯に限られるものではないと思いますが、刑罰法規に触れるということでございますので、行政上の何かに違反しただけでは、恐らく足りないということになろうかと思っております。

○丸山委員 ありがとうございました。

○後藤座長 どうもありがとうございました。

それでは、黒木座長代理、よろしくお願いいたします。

○黒木座長代理 大変ありがとうございました。

会社法上の解散命令という制度について、丁寧に御説明いただきまして、よく勉強になりました。

その関係で3ページ目について質問いたします。

1件解散命令決定が出されたということなのですが、この事件の詳細、取り分け申立てから解散命令決定までの期間とか手続といったところについて、法務省で把握されていることがあったら、お知らせいただければ有り難いと思います。

2点目の質問ですが、法826条に基づく他の官庁などからの法務大臣に対する通知はないということですが、仮に今後、通知を受けた場合の法務省内部の体制整備はどのようになっているのか。その点について、お知らせいただければと思います。

以上、2点でございます。

よろしくお願いいたします。

○渡辺参事官 1点目の発令されたケースの詳細ですが、こちらについても、必ずしも詳細を全て我々が把握しているわけではないので、かなり大ざっぱな御説明になってしまうかと思いますが、基本的に、長期間活動実績がなかった会社について申立てがあって、認められたもののようでございますので、恐らく、皆様が想定しているような、何か違法な行為を繰り返して、そのことに直接起因して解散命令制度が用いられたというものとは違うのかなということでございます。

2点目の通知を受けた場合の体制でございますが、法務省として何か特別な体制を組んでいるわけではございませんが、通知等をいただければ、私どものほうでいろいろと検討させていただくなり、あるいは関係省庁との間で協議をさせていただいて、どのように進めていくのがいいのかというお話をさせていただくことになろうかと思っております。

○黒木座長代理 ありがとうございました。

○後藤座長 それでは、川出委員、よろしくお願いいたします。

○川出委員 御報告ありがとうございました。

運用について、3点教えていただきたいことがあります。まず、3ページの解散命令の申立ての状況の表の注で「法務大臣が裁判所から通知等を受けたもの」と書いてありますが、どういう基準で裁判所から法務大臣に通知等がなされるのでしょうか。これが1点目です。

2点目は、ここに記載されている申立てが824条1項の何号に基づいたものだったのか内訳がお分かりでしたら、教えていただけますでしょうか。

最後に、3号は、法務大臣から書面による警告を受けたことが要件となっていますが、この警告についての統計は取られていますでしょうか。先ほど、平成27年以降、法務大臣による申立てはなされていないというご説明がありましたが、法務大臣による警告がなされた数を把握されておられたら、教えていただきたいと思います。

以上、3点です。

○渡辺参事官 3点御質問をいただきまして、一つ目につきましては、裁判所からどんな通知を受けるのだろうかというところかと思いますが、手続上、申立てを受けた場合に、法務大臣に対して意見を求められたりということがありますので、今回、そういったところを捉えて、法務省として関与したものを集計させていただいて、数字を出させていただいたものでございます。

それから、この9件は何号に基づく申立てかというところですが、こちらはどうも全て2号に基づくもののようでございます。活動実績がないものに対する申立てかと思われます。

それから、最後の警告につきましても、平成27年以降の数字になってしまって恐縮ですが、こちらについても実績はないということでございます。

○川出委員 ありがとうございました。

○後藤座長 どうもありがとうございました。

それでは、大石委員、よろしくお願いいたします。

○大石委員 御説明ありがとうございました。

私も、最後の会社法上の解散命令のところで、もし分かれば教えていただきたいと思いまして、質問いたします。

最初に中川委員が御質問されたこととも関連するのですが、毎年、幾つかの申立てがある中で、例えば同じ会社に対しての申立て、また、会社は違っても同じ取締役が作った会社に対しての申立てなど、そのように重なっている部分があるのか、ないのか。もし分かれば教えていただきたいというのが御質問です。よろしくお願いいたします。

○渡辺参事官 御質問ありがとうございます。

今の点は、率直に言って、なかなか分からないところでございます。申し訳ございません。

○大石委員 分かりました。

もし重なって申立てされている部分があるのであれば、今後、何か方策を考える必要もあるのではと思ったものですから質問させていただきました、ありがとうございました。

○後藤座長 他にいかがでしょうか。よろしいでしょうか。

それでは、法務省民事局へのヒアリングにつきましては、この辺りにさせていただきたいと思います。

法務省におかれましては、本日は大変お忙しい中、御出席いただきまして、誠にありがとうございました。

それでは、説明者が交代いたしますので、委員の皆様は、準備が整うまで少しお待ちください。

法務省におかれましては、御退席ください。

○渡辺参事官 ありがとうございました。

それでは、失礼いたします。

○後藤座長 どうもありがとうございました。

(渡辺参事官退室)

(田中教授入室)

〇後藤座長 それでは、後半の議題に移ってまいりたいと思います。

本日は、参考人として、東京大学社会科学研究所の田中亘教授に御参加いただいております。

本日は、大変お忙しい中、ありがとうございます。

それでは、20分程度でお話しいただきますようお願いいたします。

○田中教授 東京大学社会科学研究所の田中と申します。

私の声と、画面共有はできていますでしょうか。

○後藤座長 大丈夫です。

よろしくお願いします。

○田中教授 それでは「会社解散命令――現状評価と活用に向けての考察」と題しまして、20分ほど報告させていただきます。

まず「会社解散命令制度の概要」を説明した後、「制度の利用状況」をお話しし、最後に「制度活用への期待と課題」をお話ししたいと思いますが、制度の概要に関しましては、既に先ほど法務省の担当官の方に解説いただいたところでありますので、簡単な説明にとどめたいと思います。

まず、会社法824条ですが、この趣旨は、先ほど御説明いただいたように、会社の設立については準則主義が採られているので、社会的意義のある会社のみが設立されるとは限らず、会社制度が濫用されることもあることから、制度の濫用があったときに、法務大臣又は利害関係人の請求によって会社の解散を命ずることができることにしたということです。このような趣旨は、豊田商事事件の大阪地裁判決で説示されていまして、一般的にもこのように理解されていると思います。

先ほど御説明があったように、解散命令をするには、824条1項1号から3号のいずれかの要件の該当性に加えて「公益を確保するため会社の存立を許すことができない」と認められることが必要となります。これは、他のいろいろな手段によっては公益を確保することができないことが必要だと解されています。

それから、「公益」とは、国家の利益とかそういうことではなくて、単に、広く一般の債権者や株主などの利害関係人の利益を害するということでよいと解釈されています。

また、824条1項3号事由については、法務大臣から書面による警告を受けたにもかかわらず、反復、継続されたことが必要です。これも先ほど御説明いただいたように、解散命令は、会社に対する死刑宣告にも等しいものであるから、慎重を期するために、こうした厳格な要件が定められていると説明されています。

それから、解散命令制度に関する手続的なルールとして、解散命令の申立てがあったときには、裁判所は、その会社の財産に関して、管理人による管理を命ずる処分その他必要な保全処分を命ずることができるものとされています(会社法825条)。これは、実際に解散命令が確定した場合、裁判所によって選任された清算人によって清算手続が行われることになりますが、会社の株主や取締役らが解散命令を予期して、会社財産の隠匿その他不正行為を行うおそれがあるために、それを阻止して、会社財産を保全するということであります。

それから、826条の通知義務ですが、これも先ほど御説明いただいたように、現行の法制度では、法務大臣に解散命令の申立権があるわけですが、申立てに必要な証拠収集などの調査権限は与えられていないということがありまして、法務大臣は、解散命令すべき会社の存在を知らないことがあります。そのため、裁判所その他の官庁らが法務大臣に通知をすることになっています。その際、法務大臣に調査権限がないので、解釈上、通知をするときには、事実認定に足りる証拠も添えて通知すべきであると解されています。以上が制度の概要です。

次に、本制度の利用状況についてお話しします。『会社法コンメンタール』などを読むと、解散命令は、ほとんど活用されてこなかったと言われています。

先ほど法務省にお示しいただいた資料では、平成27年から令和3年までの期間――失礼しました。報告資料には「9年」と書いてありますが「7年」の誤りです――この期間中に、申立件数は9件しかないということです。

また、この機会に私も少し調べてみましたが、平成20年の国民生活審議会におけるワーキング・グループでも、会社解散命令制度が議論されていまして、それを見ると、最近の解散命令の申立件数は、年間3から4件ぐらいで推移していて、平成16年以降の4年間では合計13件だという資料が出されているようです。どうもこの時期と比べても、現在は、解散命令の申立てはもっと減少しているように見えます。

それは、公刊裁判例は、必ずしも実際の裁判例全部をカバーしているわけではありませんが、それでも参考までに調べてみました。そうすると、適用条文が会社法824条になっている裁判例は、1件も見つかりませんでした。

この制度は、前身としては、明治32年商法の47条・48条、これが昭和25年に改正されてからは同法58条が適用条文になっていますので、それで検索すると7件ぐらい見つかったのですが、戦前のものが多くて、戦後のものは3件だけです。

その3件のうち1件は、解散命令をした事例ではなくて、法務大臣が解散命令の申立てをしなかったことが、国賠法上の違法行為に当たると主張されて、国賠請求がされたという事案です。これは豊田商事事件といって、かなり有名な事件だと思いますが、結論は請求棄却です。

残り2件は、解散命令を申し立てた事例ですが、いずれも私人からのもので、法務大臣の申立事例ではありませんでした。

それから、会社法824条1項3号による解散命令の申立ては、法務大臣の警告が要件になるわけですが、昭和60年に法務省の担当官の方が書かれた論文では、「これまで法務大臣がこの警告を発出した例はない」と書かれています。昭和60年なので、それ以後、どうなっているかは分からないのですが、いずれにせよ、非常に利用が少ない制度であることは言えると思います。

このように制度の利用が少ないのはどういう事情によるのかは、私にもよく分からない点もありますが、先行研究・文献などを調べてみますと、次のような事情が考えられるかと思います。解散命令は、私人が申立人になるケースと、法務大臣が申立人になるケースがありますので、分けて考えたいと思います。

まず、私人が申立人になる場合は、株主や社員、あるいは取締役が申立人になり得るわけですが、こういった会社の内部者は、言わば法人格を濫用する当事者自身なので、そもそも解散命令の申立ては期待できないだろうと指摘されています。一方、例えば会社の違法行為の被害者は、会社の債権者であることが多いでしょうから、申立適格はあるということになるわけですが、個々の被害者は一市民であって、解散命令申立ての要件を主張・立証することは困難であろうと言われています。これは、豊田商事事件で原告代理人弁護士を務められた方の論考にある指摘です。会社の違法行為は様々なものがありますので、中には、非常に莫大な損失を被っていて、しかも解散命令の申立てをする資力もあるという人はいるかもしれないのですが、豊田商事事件に典型的に見られるような、多数の一般市民に被害を与えるようなケースですと、個々の市民が申立ての要件を主張・立証することは難しいということは、確かに言えると思います。

それから、これも弁護士の方の論考で指摘されていることですが、個々の被害者は、自らの損害回復を望んでいるのであって、必ずしも会社の解散を望んでいないわけです。会社が営業を継続すればキャッシュが生まれるので、そこから自分の損害の賠償を受けられることがあるかもしれません。弁護士も、依頼者の被害回復を最優先に弁護活動を行うべき立場にありますので、解散命令の利用には消極的になることが指摘されています。

そのように、私人が申立てをする動機が必ずしもないのだとすると、次に、法務大臣が申立人になることが考えられます。ただ、一つの問題として、先ほど話題にしたとおり、法務大臣が解散命令の要件を認定するための手続規定がないことがあります。調査権限が与えられていないということです。ここは、私も制度改正の経緯がよく分からないのですが、この制度は、以前は検察官が申立権者になっていたのですが、昭和25年の商法改正で、法務大臣に変更されたということがあります。ただ、その際に法務大臣に調査権限を与えるような規定は置かれなかった。この点に由来するという指摘がなされています。

豊田商事事件では、原告側は、法務大臣が申立権者とされている以上、要件の有無を調査し、確認する権限もあるのだと主張なされていたのですが、裁判所は、規定がない以上、そうした権限を解釈で認めることはできないとして否定しています。

したがって、現行法上は、官庁等が法務大臣に対して要件該当性に関する証拠を含めて通知することが期待されていると考えられるわけですが、従来は、この通知が必ずしも積極的に行われてこなかったということなのかなと思います。

それでは、なぜ積極的に通知されていなかったのかは、私には分からない部分であるわけですが、一つの要因としては、解散命令の要件の中に、主観的な要件が含まれているということがあります。特に、「公益を確保するため会社の存立を許すことができない」という要件は、どういう場合にこれが充足するかは、必ずしも明確とはいえません。

このように、要件に主観的な不明確なものが含まれる場合、申立てがあまり行われなくなる可能性と、逆に申立てが過剰に行われる可能性と両方あり得ると思うのですが、実際には、行政の無謬性とか謙抑性の考慮、つまり、間違って解散命令を申し立てると国民の権利の侵害になりかねないので、申立て自体に慎重になるという考慮が働いて、従来、解散命令が使われてこなかったのではないかと想像しております。

最後に、「制度活用への期待と課題」についてお話しします。今回の報告の依頼を受けるときに、解散命令制度が利用されていないようだけれども、それについてどう思うか、もっと利用する方向で考えたほうがいいかどうかも聞かれましたので、それについて考えてみました。基本的な考え方としては、解散命令制度には一定の社会的意義があると考えられるので、もちろん制度運営のコスト面の配慮も必要ではあるものの、もう少し制度のより積極的な活用が図られてもいいのではないかと考えております。

会社は、その事業活動によって、多数の消費者とか投資者などの一般市民に被害を与えるなど、公益を害することがあり得えます。その際、個々の被害者は、訴訟や強制執行などの被害回復の措置を採るために十分な資力を有していないか、または、被害額が被害回復のための費用に見合わないために、そういう措置を採るインセンティブを十分に持たない場合があると思われます。

また、被害回復の措置を採るのに十分な資力やインセンティブを有する被害者がいる場合でも、先ほども申しましたように、個々の被害者は自分の被害回復に主たる関心がありますので、例えば会社について破産手続開始を申し立てるなどして被害者の平等救済を図ることよりも、自分の被害を回復することを最優先する。そうすると、むしろ会社が営業を継続していたほうがいいと考える可能性があるわけです。

こういったことで、個々の被害者による被害回復の措置だけに期待していても、公益を害するような会社の違法行為が十分に抑止されず、また、被害の回復が十分に図られなくなるおそれがあります。

解散命令制度は、公益確保のために必要な一定の場合に、会社の解散を命じることによって、将来にわたって違法行為を抑止することを可能にする制度です。

また、解散命令がされると、裁判所が選任した清算人が清算事務を行うことになります。この段階で会社が債務超過であることが分かると、清算人は破産手続を会社に申し立てる必要がありますので、最終的には、会社法の清算手続又は倒産手続によって被害の平等回復が図られることが期待されます。

また、解散命令の申立てを受けた裁判所は、保全処分の命令が出せますので(825条)、会社財産の隠匿・散逸を防止し、被害回復の可能性をより高めることができるということがあります。

それから、特に824条1項3号による解散命令は、法務大臣の警告が要件になるわけですが、警告を発すること自体で、これに従わない場合は解散命令の申立てがされるということになりますから、違法行為を行っている会社に対して一定の抑止効果も期待できるのではないかと思います。

そのように、解散命令制度、特にその中でも法務大臣の申立てによるものは、私人による法のエンフォースメントが、先ほど申しましたいろいろな事情で過少になるような場合に、公的エンフォースメントないし行政による法のエンフォースメントによってその不足を補って、違法行為の抑止及び被害の回復を実効的に行う意義があると考えます。

もちろん、公的なエンフォースメントは、解散命令制度の他にも、様々な行政措置が採られ得ます。例えば、特定商取引法には、業務停止命令とか業務禁止命令などの制度がありますし、業務停止命令などは金融商品取引法にもあります。私人による法のエンフォースメントの不足を補うためには、会社解散命令制度だけではなくて、こういった他の手段の拡充も併せて検討されるべきですし、このワーキング・グループではそういった検討もなされていると承知しております。

もっとも、例えば業務停止命令を出しても、その後に違法行為が繰り返されて、十分に公益の確保を図れない場合もあると伺っております。また、例えば業務停止命令などは、何度も繰り返して発動すると、会社の財産が毀損されていくということで、被害回復にとってむしろマイナスになる可能性もあるというジレンマもあるように思われます。そのように、他の手段によって公益を確保できない場合に採れる手段として、解散命令には一定の存在意義があるのではないかと考えております。

とはいえ、制度活用のために、具体的にどんな方策が採れるのかという点については、従来、解散命令がほとんど活用されていなかったために、研究もほぼないような感じですので、私も十分に認識しているわけではありません。

ただ、一般論として言えば、現行法上は、法務大臣は独自の調査権限を持っていないため、監督官庁などからの通知に依存する形になっていますので、通知を従来より積極的に行うことが検討されるべきだと思います。

それから、制度的に採り得る対応としては、先ほど御紹介した、豊田商事事件で被害者の代理人を務められた弁護士の先生から、解散命令の申立ての要件は主観的なので、これを客観化することが検討されてもよいという提案がされています。

特に「公益を確保するため会社の存立を許すことができない」は主観的な要件ですので、これについては、何らかの推定規定を設けることもあり得ると思います。

例えば、被害者数や被害額が一定以上であって、一定の行政措置を採った後も違反が継続しているといった一定の基準を満たすときは、この要件の充足を推定するということです。ただ、これは立法論にわたりますので、そう簡単には実現しないかもしれません。

もっとも、立法をしないまでも、行政が、一種の解釈方針というか、ガイドラインを作ることは考えられます。例えば、法務大臣が、解散命令の申立て、もしくは1項3号による申立てをする場合に必要とされる警告をするための判断基準をガイドラインとして作って公表するとか、または監督官庁が、会社法826条による通知をするかどうかの判断基準を作って公表するようなことは考慮に値するかと思っております。

以前から、会社法学者の間では、解散命令制度を活用にするには、結局のところ法務大臣の「決意」に期待するしかないということも言われています。実際は、制度を機能させるためには、決意だけでは足りない部分もあって、予算措置を伴う人的体制の整備なども必要なのではないかとも思えるところで、なかなか簡単ではないのかもしれませんが、先ほど述べましたように、この制度には一定の存在意義があると思いますので、制度活用のための検討が進むことを期待したいと思います。

長くなってしまいましたが、以上で私の報告を終わります。

○後藤座長 どうもありがとうございました。

それでは、これより40分程度、質疑応答の時間とさせていただきます。

ただいまの御説明を踏まえまして、御質問、御意見等がある方は、御発言をお願いいたします。

御発言をされる際には、チャット欄に御投稿ください。

よろしくお願いします。

中川委員、よろしくお願いします。

○中川委員 中川でございます。

2点質問させてください。使用例がほとんどないということなので、お答えいただくにあたっても仮定的になるかもしれませんが。

1点目は、利用が少ない原因です。私人が申し立てる場合は別といたしまして、法務大臣からの申立て、そして法務大臣に対する通知というパターンを考えると、そもそも行政機関がこの制度を知らなかったので、通知していなかったことが最大の原因かなと想像しています。

先ほどの国家賠償の事件、豊田商事事件の判決では、法務大臣に調査権限がないということで請求棄却になったようですが、そもそも担当官庁から法務大臣に対して通知もなかったのだから、法務大臣としては何もしようがないので請求棄却という判決だったのでしょうか。判決理由をよく覚えていないのですが、もしもそうであれば、正にこれは一つの象徴的事例かと思います。担当行政庁、つまり、情報を持っているはずのところから法務大臣に通知することがそもそも行われていなかった、法務大臣が申立てをすれば、解散命令決定が出そうなパターンについて、各所管の行政官庁が何も通知していなかったという想像が成り立つのかどうか。

もう一つは、会社法の解釈だとどうなるかということをお尋ねしたい。先ほど主観的要件とおっしゃっていた824条の「公益を確保するため会社の存立を許すことができないと認めるときは」という条文は、どういうイメージなのかということをお尋ねしたいのです。

824条第1項の3号該当性の場面を念頭に置きますと、ここでいう3号の法令に違反した場合、あるいは刑罰規定に違反している、要するに、違法行為をやっているだけであれば、多くの会社がこれに該当してしまうわけです。それを超えた何かが必要というのが「公益を確保するため」という意味だと思うのですが、この公益は、例えばその個々の法令が追求しようとしている政策目的からすると、非常に重大な違反事実であるから、当該法令が規制している業務について、これ以上やらせるのは適切ではないという意味で、業務停止命令などになると思うのですが、他方、会社としては他の業務もやっている。業務部分があって、それを続けているとします。他の業務はまともというか、特に問題はない。だけれども、特定の法令に非常に重大に違反している。そういう場合は、当該法人そのものを消してしまうという解散命令は、さすがに会社法的には駄目だという発想になるのか、それとも、会社業務の一部であっても、それは会社としてやっていて、ここでいう公益とは、会社法が目指している公益ではなくて、当該法令が目指している公益であるという解釈は可能でしょうか。

個別の法令に営業許可制度があれば、その場合は許可取消しをすればいいので、許可取消しをすれば、事実上、解散命令と似たような感じで、財産は保全できませんが、当該業務自体はなくなるわけです。しかし許可制度が法定されていない場面だと、結局、解散命令によって当該業務をやめさせないと、どうにもならぬところがあろうかと思います。

そのような考え方で会社法824条を解釈していいのか、それとも「公益を確保するため」の「公益」は、会社法上、何か特有の意味があって、法人格自体の濫用みたいな更に大きい要件だと解釈すべきなのか。そうであれば、これは結構ハードルが高いなという感じになるのですが、これが2点目の質問です。

○後藤座長 いかがでしょうか。

○田中教授 どうもありがとうございます。

従来、通知がされなかった理由は、実のところ、関係官庁が通知という制度を知らなかった可能性もないではないと私も思っておりますが、本当にそうなのかは分かりません。

通知という制度があったとしても、824条の要件該当性を満たすかどうか分からないので、通知をしなかったといった主張を国側にされると、それが事実ではないことを立証するのは被害者にとっては困難なので、実際上、関係官庁が通知をしなかったことを、国家賠償法上の違法な行為とすることは難しいということはあるかなと思います。

豊田商事事件の場合は、さすがに通知制度を知らなかったとは、国は主張できないので、実際の訴訟では、法務大臣には要件該当性を認識できなかったという主張がされ、裁判所はそれを認めています。また、国賠法の解釈上、権限不行使が違法になるには、裁量の濫用とか逸脱が認められることが必要で、法務大臣には広い裁量権限があることから、権限不行使について違法性までは認められないということだったのではないかと思います。

ただ、これまでどうかは分かりませんが、今後、もしこの制度を活用するのであれば、まずは通知制度があるということを十分に周知することは必要と思います。

それから2番目の御質問についですが、公益について、業法などの解釈として、ここまで違法行為が繰り返されている場合は、この事業を継続させるのは公益に反するだろうと解されるようなケースにおいて、更に会社法で何かフィルターがかかって、会社法上、法人格を剥奪するためには、もっと強い公益の侵害が必要だということに果たしてなるかといいますと、あまりそういうことはないのではないか思います。

そもそも、法人格を認めること自体、国の立法裁量の問題ですので、例えば準則主義にするかそれとも許可制にするか自体も、立法裁量の問題ですので、一度与えた法人格を剥奪することが、会社法上殊更に厳しい制約が課されるということは必ずしも言えないのではないかと思います。

特に、株式会社の場合、株主は有限責任ですので、ある種の特権みたいなものがありますので、それを利用するには一定の責任が伴うことは、会社法学者がかなり強調してきたことでもあります。この制度は、従来、通知もされていないし、もちろん申立てもされていないという状況なので、裁判例がほとんどないものですから、解釈論としてこうなりますとはなかなか言えないのですが、別に会社法の制度だからといって、公益の要件充足性について、会社法の観点から特に厳格に考える必要はないのではないかと個人的には思います。

○中川委員 ありがとうございました。

大変エンカレッジングな御説明でした。

○後藤座長 どうもありがとうございました。

それでは、山本委員、よろしくお願いいたします。

○山本委員 ありがとうございます。

田中教授、大変分かりやすい説明をありがとうございました。

私から3点質問させていただきたいのですが、第1点は、この制度の沿革というか、比較法的に見ると、どこの国の制度を参考にしているのかということです。明治32年商法というお話がありましたので、ドイツ法かフランス法かと思うのですが、どの辺りなのか。

それから、もし分かれば、御報告においてのこの制度の現状というか、先ほどあまり研究がないというお話だったので、あまり分からないのかもしれませんが、もしその辺りも分かればお教えいただきたいというのが第1点です。

第2点ですが、戦後、ほとんど利用がないということでしたが、私も『会社法コンメンタール』を見ただけですが、そこに引用されている裁判例を見ると、戦前は、例えば保険類似行為で暴利を貪っていた会社に対してこの制度が適用されたとか、あるいは利息制限法の適用を免れる目的で合資会社を設立した場合にこの制度が適用されたという裁判例が引用されていて、この研究会で考えられているような方向でこの制度が使われていた時期も、戦前においてはあったのかなと見受けられました。そうすると、それは一体何によっていたのか。

今、田中教授からこの制度が利用されない理由を挙げていただきましたが、それは何か違っていたのかどうかと、戦前は100年ぐらい前の話なので、資料があるのかどうかもよく分かりませんが、もし田中教授から何か想像されるようなことがあれば、教えていただきたいということです。

最後に、第3点は、今の中川委員の質問との関係で既にお答えいただいたところでもあるかと思うのですが、公益目的の部分で、そんなに重く考える必要はないというのが田中教授の御意見であったかと理解しました。

確かに、裁判例でも引用されている、例えば注13の松山地裁の西条支部の判決などを見ると「数年間代表取締役が店舗を閉鎖し行方不明、債務が返済されず更生の見込みがないことを理由に、申立認容」となっていて、例えばこの事件において、一体何が公益の目的だったのか。

私などから見ると、結局、代表取締役が夜逃げしているような多くの倒産事件においては、ほとんどこれを満たしているような感じがするものです。

それから、債務を弁済しないという部分で公益の目的が満たされているとすれば、いわゆる悪徳事業者の場合には、比較的簡単な証明で認められそうな感じもするのですが、どのような部分を捉えて公益と言われているのかといったあたりについて、御教示いただければと思います。

○田中教授 どうもありがとうございます。

沿革について、私は十分に勉強していませんが、ドイツにも同じような制度があると聞いておりますので、大陸諸国の制度を参考にしたと思っております。ただ、ドイツの場合も、必ずしも積極活用されているわけではないようなことを聞いています。

2番目の御質問、戦前にはこの制度は使われていたのではないかというのは、私もコンメンタールで紹介されている裁判例を見て感じたことです。ただ、戦前の制度は、まず、要件が単に公序良俗に反する場合となっていたことと、それから検察官が申立権者ですから、営業活動の自由とか個人の人権が必ずしも尊重されていなかった時代の利用のされ方なので、戦前の運用を積極的に参考にするわけにもいかない部分もあるかなと思っています。ただ、戦前に何度も使われていたことは確かなようです。

現行法の824条1項3号にある、事前の警告を必要とするという制度などは、戦前にはなかった(営業活動の自由や人権などへの)配慮の下に作られているのだろうと思います。現行制度は、個人の人権にも配慮しながら活用していくことはできるのではないかと思っております。

3番目の御質問、公益充足性なのですが、確かに松山地裁の事例を見ると、代表者が夜逃げしていて、営業活動をやっていなくて、多数の債権者が取り残されているというだけで解散命令が出されています。この事件の場合、果たして被告のために弁護活動をする人がいたのかという問題はあるかもしれませんが、実際に解散命令が申し立てられた場合には、このような事件では比較的容易に解散命令が出される可能性はあるかと思います。

ただ、事案が事案なので、真剣に被告側のために争っているような事件の場合に、これほど簡単に命令が出せるかというと、疑問もあるとは言えるかと思います。

特に、会社が現に事業をやっている場合ですと、公益を確保するために必要であることが解散命令の要件ですので、例えば違法行為をしていても、損害賠償請求をすればいいではないかとか、他の行政措置を出せばいいではないかというような抗弁が会社側から出されると、微妙な判断にもなってくるのかなという気はします。

ただ、そうではあっても、少なくとも、公益とは国家の利益のような特別なものではなくて、要するに、多数の利害関係人の利益ということでしかないということは会社法学でも言われていますから、あまりにこれを厳格に解釈する必要はないと思っております。

○山本委員 ありがとうございました。

本日の御提案の中で、最後のほうに言われた、官庁等が通知の客観的な基準みたいなものを作ったらどうなのかというのは、大変有意義な御提言だと私は感じました。

そのような基準を作る場合の相場感というか、水準のようなものが知りたかったので、最後の御質問をさせていただきました。

○後藤座長 ありがとうございました。

それでは、木村委員、よろしくお願いいたします。

○木村委員 御説明ありがとうございました。

私からは、資料の4ページにあります「利用が少ない理由」で、私人が申立人になる場合には、確かに理由としては納得いくところなのですが、これに関して、例えば適格消費者団体などがもしかしたらそれぞれをまとめてという方法が考えられるかと思うのですが、これについて教授の御見解があれば、お願いしたいと思います。

もう1点は、申立てのときの手続とか費用といったことをもし御存じでしたら、教えていただきたいと思います。

これはもしかしたら先ほどの法務省に質問してもよかったのですが、教えていただければと思います。

以上の2点をお願いいたします。

○田中教授 ありがとうございます。

おっしゃるとおりで、適格消費者団体に申立権を与えるのは十分に考えられることかと思います。

解散命令の制度が作られたときは、そういう適格消費者団体みたいな制度もなかったので、そういう団体による申立てといったことはあまり考えられてこなかったかと思いますが、消費者自身は、本制度を利用する十分な資力やインセンティブがないという構造的な問題があると思いますので、適格消費者団体の権限を徐々に拡大していく中で、この制度の申立権も認めるという方向性も考えられると思います。

2番目の費用については、私は調べておりませんので、申立てそのものにどの程度の費用がかかるかは分からないのですが、恐らく、裁判所に納付する費用よりも、解散命令の要件の主張・立証のために弁護士を雇うとか、そちらの費用のほうが大きいのかなと思っているのですが、この場ではお答えできません。

○木村委員 ありがとうございます。

よく分かりました。

○後藤座長 よろしいでしょうか。

申立ての費用に関して、事務局で何か調査とかをなさっていますか。

○事務局担当者 事務局でございます。

皆様にお配りしている机上配付資料1に、過去のワーキング・グループ(国民生活審議会「守る」ワーキンググループ・第3回・資料8)で、その当時、法務省が答えている資料がございます。

1ページの2です。

この質問自体は、申立てを阻害する要因は何かあるかという質問との関連で、法務省がお答えになっている部分があるのですが、2の最後の下から3行目ぐらいから、申立手数料は1,000円であり、その他手続も、他の会社非訟事件と同様であることから、その活動を阻害している特段の要因はないものと思われるとありまして、これは平成20年の資料ですが、若干、価格の改定がある可能性はありますが、ここからさほどは変わってはいないのだろうと思います。

○木村委員 分かりました。

ありがとうございます。

○後藤座長 どうもありがとうございました。

それでは、丸山委員、よろしくお願いいたします。

○丸山委員 田中教授、本日はありがとうございました。

私からは、3点ほど教えていただければと思います。

第1点としましては、運用がないので難しいということになるかもしれませんが、消費者被害の案件、豊田商事事件とかその他預託商法などを念頭に置いた場合に、824条1項1号の不法な目的に基づいてされたときとか、あるいは3号の法令もしくは定款で定める会社の権限を逸脱もしくは濫用する行為は、具体的に消費者被害案件に則して考えた場合に、果たしてどういうケースが考えられるだろうかということについて、もし思い付くようであれば、御教示いただきたいというのが第1点です。

第2点としましては、先ほどの木村委員の質問とも関連するのですが、現行法の解釈として、その他の利害関係人というところなのですが、消費者法規に基づく差止請求、あるいは集団的な被害回復の対象となりそうな行為が行われている場合に、適格消費者団体とか特定適格消費者団体がその他の利害関係人に当たることは、現行法の解釈としても、解釈論上、可能なのかという点を教えていただきたいと思います。

最後は、教授から御教示いただいている「制度活用のための方策」で、具体化や推定規定が必要だというのは、非常に重要な指摘だと思いました。

そこに「一定以上の被害者数、被害額があり」とあるのですが、この部分につきましては、例えば潜在的な被害者数や被害額ということでも、解釈上の運用は可能でしょうか。

というのは、恐らく、預託商法などの事例では、苦情とかが出てくるのは、本当に最後の最後の支払停止があるような段階だと思うので、その前の業務停止命令などが重なっている段階だと、必ずしも消費者からの苦情はない可能性もあるので、そういった潜在的な被害者数、被害額ということでも運用は可能な感触があるのかを教えていただければと思いました。

○田中教授 どうもありがとうございます。

824条1項1号の目的要件についているのですが、この規定の解釈として、定款所定の目的が違法であれば、当然、この要件に当たるのですが、定款所定の目的は適法なことが書いてあっても、実質的に違法な目的のために会社を作った場合は該当すると従来解釈されています。

例えば、貿易業をやると定款に書いてあるのだけれども、実際は密輸入を目的としているとかいうことです。実際の消費者被害の事件は、最初から違法なことをやるために設立したということを立証できるのかどうかという問題もあるかもしれないのですが、少なくとも解釈上は、実質的には違法な目的のために設立した場合は、この要件に該当すると解されているので、3号でなくても、1号の該当性が認められるケースもあるのではないかとは思います。

2番目は、確かに、利害関係人が申立人になるので、適格消費者団体もこれに当たることもあるように思います。私は適格消費者団体の制度を承知しておりませんので、この場で答えられませんが、解釈論としてそう言えるケースもあると思います。おっしゃるとおりだと思います。

3番目の被害額などは、監督官庁が把握している被害者数、被害額、裁判所において将来的に被害が顕在化することが認められればいいのではないかと思います。

実際、マルチ商法みたいなものだと、消費者自身は自分を被害者だと認識していないケースもあると思いますので、そういう場合であっても、最終的に客観的に被害に結び付くということが言えれば、この要件を満たすような形で基準を作られるのがいいと思います。

○丸山委員 ありがとうございました。

○後藤座長 ありがとうございました。

それでは、黒木座長代理、よろしくお願いいたします。

○黒木座長代理 どうもありがとうございました。

非常に勉強になる御報告だったと思います。

その中で大変興味を持っておりますのは、教授のレジュメの6ページで積極的に通知を行うべきだ、あるいは一定の基準を作成すべきだと御指摘をいただいております。この点は大変興味がある御指摘だと思っておりますので、その観点で少し質問させていただきたいのです。

まず、これは議論の前提となりますが、解散命令の824条1項3号の法令とは、いわゆる特商法とか預託法といった特別法も、法令の中に含まれると考えたいと思っているのですが、その点を確認したいというのが第1点。

それを前提としてですが、例えば特商法8条は、事業体自体に対するいろいろな行政処分なのですが、8条の2は、その背後者も含めていろいろな行政命令を出すことができることになっています。

背後者も含めて行政命令を出すことが可能ですが、例えば業務停止等の行政命令は、間接的に被害を防止することが目的だろうと思います。解散命令は、法務省の司法手続を媒介とすることによって、教授の御指摘のとおり、直接的に私人たる被害者の被害回復にもつながる可能性がある制度だということで、非常に重要なものだと思います。行政処分の対象者が、例えば背後者等に対して行政処分が出されることになると、もしかすると824条1項1号の可能性も出てくるのではないか。

株主とかが業務停止の対象者となることになれば、初めからそのつもりで作ったのではないのと言えるのではないかという解釈ができないかということが2点目です。

3点目の質問として、例えば12か月を超えるような業務停止を命じられると、通常の会社であれば、本来であれば事業継続ができないと推定が働くと思うのです。したがって、そのように行政庁が12か月を超えるような業務停止・業務禁止命令を出すような場合には、法務大臣に対して826条の通知をすべきであるというガイドラインを作ること自体は、これは教授の御意見で結構ですが、一つの可能性として、年を渡るようなものについてはどうでしょうか。

しかも、それを繰り返しているような場合、当該事業者とその背後者に対して、2回にわたって12か月を超える業務停止命令、業務禁止命令を出している場合は、当然、監督官庁である行政庁が法務省に対して通知をしなければならないといったルールを仮に教授の御提案の中で作ることは、教授のお考えからしてどうか。この3点でございます。

よろしくお願いいたします。

○田中教授 どうもありがとうございます。

いずれも重要な御指摘だと思います。

1番目の御質問の824条1項3号の法令は、もちろん、全ての法令が含まれますので、消費者保護のための特別法も含まれると思います。

2番目については、確かに、主要な株主までが業務禁止命令の対象になるようなケースですと、いわゆる会社ぐるみというか、会社を作ったときから既に違法なことをすることを想定していたと言いやすいケースがあるのかなと思っておりまして、特に一度処分を受けた人間がまた会社を設立して、また同じようなことをやっていることになりますと、既に設立目的自体が違法なので、824条1項3号の手続ルールによるまでもなく、1号でいきなり解散命令を申立ててもいいケースはあると思います。

3番目の御質問についてなのですが、従来、裁判例がないので、あまり解釈はこうですと言えないのですが、従来、824条1項柱書きの「公益を確保するため会社の存立を許すことができない」という要件は、他の措置によっては公益を確保できないことが必要だと解釈されていますが、これは、従来はお題目みたいにいわれるだけで、それが具体的に何を意味するのかは、必ずしも十分論じられていないような気がします。

例えば、損害賠償によって公益を図れるときは、解散命令は出せないといわれるわけですが、会社が違法行為をすれば、基本的に被害者には民法上損害賠償請求権が発生するわけで、法律上、損害賠償請求権が発生するということをもって、公益を図れるなどと言い出したら、解散命令を申し立てられる場合がなくなってしまいます。

ですから、当然のことながら、損害賠償によって公益を確保できるといえるためには、損害賠償請求権が法律上あるというだけでは駄目で、実際にそれを行使することによって損害の回復を図れるということでないといけないと思うのです。

業務停止とかの行政処分も同じことがあると思っていまして、業務をやめさせてしまえばいいということではなくて、その行政処分をするまでにたくさんの被害が生じているはずですから、その被害の回復も図れないと、公益を確保したことにならないのではないかと思っています。

そういうことを言い出しますと、逆に、違法な行為を継続的にやっている会社の場合、問題が発覚したときには既に債務超過になっているケースが多いでしょうから、逆に解散命令を簡単に申し立てることができるようになるかもしれないのですが、私は、それはそれでもいいのではないかという気もいたします。

特に、業務停止命令を出されますと、1年も業務停止してしまえば、多分、会社の事業を復活することはできないでしょうから、被害者は一切損害を回復されなくなってしまうわけですので、それだと基本的に公益を確保できないのではないかとも思うのです。

ですから、これはあまり議論されていないものですから、私の解釈が会社法上、一般的な解釈だとは言えないのですが、業務停止命令を出してしまうと、被害の回復自体にはむしろマイナスになってしまうケースもありますから、そういうことも考慮して、それでは公益の確保はできないということで、解散命令の申立要件を満たすと言えることも十分に考えられるのではないかと思います。

○黒木座長代理 ありがとうございました。

大変参考になりました。

○後藤座長 どうもありがとうございました。

それでは、川出委員、よろしくお願いいたします。

○川出委員 御報告ありがとうございました。

的外れな質問なのかもしれませんが、最後の「制度活用のための方策」のところで、現行法上、法務大臣が独自の調査権を持っておらず、関係官庁からの通知に依存する形になっているため、通知を従来よりも積極的に行うことが検討されるべきだとされています。これ自体はそのとおりだと思いますが、もう一歩進めれば、解散命令の申立権者自体を拡大して、例えば関係官庁の主務大臣に申立権を与えるとか、あるいは戦前がそうであったように検察官に与えるといった方策も考えられると思います。このように、法務大臣以外に会社の解散命令の申立権を与えるというのは、会社法制全体として見た場合に、制度として考えにくいものなのでしょうか。

御説明の中では、関係官庁が通知を積極的にしてこなかった理由は、そもそも解散命令の要件が主観的であり、要件該当性に関する証拠を集めて通知をすることが困難であったという点を指摘しておられました。そうすると、申立権者を拡大したとしても、要件あるいは判断基準を明確にしないと実効性は上がらないので、申立権者を拡大するよりも、要件を改めるほうが先であるというのが、田中教授のお考えということでしょうか。

○田中教授 どうもありがとうございます。

申立権については、現在の制度がなぜ法務大臣になっているのか、私も十分に理解していないのです。

戦後、いろいろな申立権の制度が整理されるときに、検察官に与えられていた制度を、検察官から取り上げて法務大臣にしたものが多分幾つかあるのだと思っていて、そこの経緯については、なぜそのような改正が行われたのかを調べてみないといけないと思います。

ただ、一般的には、検察に権限を与えることに対する懸念があったのだと思っていて、戦前の人権の状況から見れば、一定の理由はあったのではないかと思います。

検察官の権限は、そもそも犯罪の捜査のために与えられた権限であるはずで、これが何か別の制度に活用するというのは、一般論としては、どんどん積極的に認めるべきとまでは言えない、それには別の問題があると思います。

そういうことで、なかなか簡単には言えないところがありますが、公益を確保するためには、違法行為の抑止とか被害の回復は大事ですから、今の状況でこの制度がほとんど使われていないのはそれ自体として問題だとも考えられるわけで、個人の人権にも配慮しながら申立権の範囲を拡大していくこともあり得るのではないかと思います。

ただ、例えば監督官庁に申立権を与えるということについては、今は法務大臣への通知もされていないということで、それは要件充足性の判断が微妙なので、慎重にやっているためであるとすれば、監督官庁に申立権を与えても、それだけではなかなか積極的に活用されるようにはならないということもあるのではないかと思います。

そういうことから、まずはガイドラインないし解釈基準を作ることによって、これはこの制度の周知を図るという間接的な意味もあると思うのですが、そういった形で制度活用を図っていくことも考えられるのではないかと思います。

○川出委員 ありがとうございます。

確認なのですが、そうすると、例えば、現在、特定商取引法には業務停止命令や業務禁止命令が定められているのですが、一歩進めて、特定商取引法で、主務大臣に会社の解散命令申立権を与える制度を作ったとしても、会社法上は特に問題はないわけですか。

○田中教授 そうですね。

法的なエンフォースメントの権限をどこに与えるかは、公法で決めればいいことだと思います。

公法上、法務大臣だけでは十分でないから、監督官庁にも権限を与えるということであれば、会社法上、それに反対する理由はないと思います。

むしろ会社法学ですと、特に株式会社とかは有限責任なので、濫用されやすいこともあるわけですから、公的なエンフォースメントを図る必要は、一般の自然人が事業をする場合と比較しても大きいと言えるのではないかと思います。

○川出委員 分かりました。

どうもありがとうございました。

○後藤座長 どうもありがとうございました。

他にございませんでしょうか。よろしいでしょうか。

大石委員、よろしくお願いいたします。

○大石委員 お時間がないところすみません。

1点だけ確認させてください。

今のお話とつながるのですが、6ページの最後のところに、実際にこの制度を活用するためには、予算措置を伴う人的体制の整備なども必要、と書いていただいています。これは法務省に調査権限を持たせるということではなく、今、お話があったように、どちらかというと各省庁側にそういう権限を持たせるという御提案なのでしょうか。そこのところが分からなかったので、教えていただければと思いました。

○田中教授 ありがとうございます。

おっしゃるとおり、こういうことを書くと、予算措置が採られない限りできないという主張だと取られかねないので、もう少し慎重に書いたほうがよかったかなとも思います。個人的には、たとえ証拠の収集などは監督官庁でやるとしても、現実に裁判で訴訟活動をやる以上は、それだけのためでも人的体制が必要なので、ある程度予算措置は必要なのではないかというつもりで書いたのですが、あまり軽々に言い過ぎないほうがいいのかなという気もしました。

実際は、現実的に制度を動かしてみないと、予算措置などと言っても、必要性も分からないこともありますので、まずは現在の制度の中で通知などを積極的にやってみて、現実にどれだけの事件が起こるのかを見て、その上で予算措置を採るということでもいいのかなという気もします。

御指摘ありがとうございます。

○大石委員 ありがとうございました。

○後藤座長 どうもありがとうございました。

他にございませんでしょうか。よろしいでしょうか。

どうもありがとうございました。

それでは、田中教授へのヒアリングは、この辺りにさせていただきたいと思います。

本日は大変お忙しい中、御出席いただきまして、誠にありがとうございました。

それでは、田中教授におかれましては、御退出いただきますようお願いいたします。

委員の皆様は、準備が整うまで少しお待ちください。

○田中教授 今日は本当にありがとうございました。

勉強になりました。

○後藤座長 大変勉強になりました。

ありがとうございました。

○田中教授 こちらこそどうもありがとうございました。

それでは、退室させていただきます。

(田中教授退室)

○後藤座長 本日は、法務省からは会社法の解散命令制度の趣旨、内容及び近年における運用状況等について御説明をいただきました。

田中教授からは、会社法の解散命令制度の現状に対する評価について御説明をいただくとともに、制度をより有効に活用するための方策についても御意見をいただきました。

会社解散命令制度につきましては、会社法の体系書等でもそう詳しく書いていないところでありまして、本日の御報告と委員の方々の意見を通して、よく分からなかったところが非常に鮮明になってきたと思います。

それから、全体として、この制度の活用はできるのではないかという方向で、全体を受け取ることができるように感じました。

法務省の御報告に対する質疑応答についてでありますが、違法行為を行っている会社の所在がはっきりしない場合、それから、解散命令が一旦出たのだけれども、別の会社を作ることもあるわけでありますが、そういう場合に解散命令が機能するのかどうかということについての質疑応答がありました。

また、824条1項3号の規定でありますが、法務大臣からの書面による警告後、どの程度時間がたったら、この制度が発動するのかという具体的な適用面でのお話もありました。

それから、824条1項3号の刑罰法令に関して、罰則に当たるものに限定されるのかということに関する質疑応答もありました。

さらに、具体的な制度の運用ということでありますが、この制度が発令されたケースの詳細についての質疑応答がありました。

それから、法務大臣に通知があった場合の体制のことでありますが、法務省として特別な体制を現時点で整えているわけではないけれども、通知があれば、それに対して法務省内で対応することや、他の省庁と連絡を取り合って対応することがあるという御回答をいただいております。

また、824条1項の何号に基づく申立てが多くなされているのかについての質疑応答がありました。

続いて、田中教授への質疑応答でありますが、会社解散命令の制度の利用が少ないことの原因として、行政機関が826条の制度を知らなかったから、通知をしなかったということが言えるのかどうかをめぐる質疑応答がありました。

それから、824条1項柱書きの「公益を確保するため会社の存立を許すことができないと認めるとき」の「公益を確保するため」については、委員の方々の関心が高かったと思います。

この「公益」をめぐっては、特に会社法における公益として、会社法上のフィルターが入る公益なのかどうかということで、そういうことはないのではないかという御回答をいただいております。

それから、この制度の沿革についても質疑応答がなされております。

日本の国内ということでありますと、戦前においては、むしろ悪質事業者対応というこのワーキング・グループの問題、関心にかなうような判例がある、そういうことも参考になるのではないかということをめぐる議論もなされております。

また、会社解散命令の申立権者を拡大することによって、この制度の活用を図る方向も議論されました。適格消費者団体に申立権を認めるかどうかということにつきましては、824条1項の柱書きでありますが、「その他の利害関係人」に適格消費者団体も含めることも考えられるだろうという御回答をいただいております。

824条1項1号の「不法な目的」について、その解釈、具体的な運用をどのように考えるのか。それから、先ほどの「公益を確保するため会社の存立を許すことができないと認めるとき」という824条1項柱書きの部分でありますが、その要件に何らかの推定規定を設け、一定以上の被害者数や被害額を考える際に、潜在的な被害者数や被害額もその中に入るのかという問題も議論されました。

さらに、資料2の1から2ページにかけてでありますが、会社法824条1項1号から3号のいずれかの事由に該当することに加えて、先ほどの「公益を確保するため会社の存立を許すことができない」ことが要件になっています。その場合に、「他の手段(業務執行者の解任、損害賠償、刑罰、営業停止、免許の取消しその他の制裁)によっては公益を確保できないことが必要である」というのが従来の解釈ですが、本当にそのように考える必要があるのかという問題も議論されました。

本日、非常に有益な議論がなされまして、私のほうでまとめ切れていないのでありますが、委員の方々から何か御指摘いただければ有り難いと思います。

本日の質疑応答を通して、会社法の解散命令制度について、今後、より積極的に活用することについての貴重な示唆をいただくことができたのではないかと思います。

本ワーキング・グループでの検討課題であります悪質事業者による消費者被害の救済という観点から見た場合に、現行制度には何が足りていないかということについての検討を深めて、本日の議論を参照しつつ、必要な制度について、更に議論を深めてまいりたいと思います。

それでは、本議題については以上としたいと思いますが、委員の方々から何か御意見、補足等がありましたら、御発言いただくと有り難いと思いますが、いかがでしょうか。

お願いいたします。

○中川委員 中座しましたので、私が聞き漏らしたのかもしれませんが、適格消費者団体が話題になりまして、適格消費者団体がその他の利害関係人になるかという質疑を私は聞いたのですが、それ以前に、適格消費者団体が法務大臣に通知すると呼んでよいのかは分かりませんが、要するに、連絡する。こんな証拠があるので、解散の申立てをしてくれということをするルートはあるという理解でよろしいでしょうか。

そこを確認したくて、誰に確認すればいいのか分からなくて、先ほどは聞かなかったのです。

○後藤座長 私は、そういうルートも考えられるということで理解しましたが。

○加納事務局長 それは会社法上の制度としてということですか。

○中川委員 そういうことです。

○加納事務局長 会社法上の制度として議論になったのは、まず、適格消費者団体が会社法824条1項のその他の利害関係人に当たるかどうか。

○中川委員 ここは申立適格があるかという問題ですね。

○加納事務局長 そうですね。申立適格で。

○中川委員 法務大臣の申立適格を使ってやってしまえばいいではないかというのが私の疑問です。法務大臣に調査権限はないのだけれども、証拠があればいいわけですので、十分な証拠があれば適格消費者団体が法務大臣にそのまま知らせればいいのではないか。

○加納事務局長 通知主体として、適格消費者団体を含めるということですか。

○中川委員 法には通知主体の限定はないのではないかと思うのですが、826条は通知義務ですね。「しなければならない」であって、他が通知してはいけないとは書いていないので、これをやれば、適格消費者団体は今でもできるのではないかと思ったのですけれどもね。

○黒木座長代理 黒木ですが、発言よろしいでしょうか。

○後藤座長 はい。お願いいたします。

○黒木座長代理 その点ですが、私がずっと考えているのは、法令に違反する事実がある場合には、その是正のために必要な処分、行政指導がなされていないと思料するときは、当該処分をする権限を有する行政庁又は当該行政指導をする権限を有する行政機関に対し、その旨を申し出て、当該処分又は行政指導をすることを求めることができるという行政手続法36条の3があるのです。

そうすると、適格消費者団体からすると、消費者庁に対して826条の通知をしろというのは、恐らく一種の処分だと思うのです。

問題は、先ほどの法務省の説明で、解散命令の申立ては行政処分ではないとおっしゃっていたので、行政手続法36条の3は使えるのかなというのは、疑問に思ったところです。

○中川委員 法務大臣による申立ては、定義としても行政処分ではないので、行政手続法のその条文の対象ではないと思います。

その上で、先ほど申し上げたのは、単純にいわゆる役所への垂れ込みです。これは昔から普通にやっていますので。

○黒木座長代理 事実行為として。

○中川委員 事実行為としては。

そういう意味です。

○黒木座長代理 分かりました。

ただ、適格消費者団体が消費者庁に対して、36条の3で826条の通知をしろというのは、法的根拠は36条の3を使うことはできるのではないかと思うのですが、それも事実行為になってしまいますか。

○中川委員 そうだと思います。

だから、適格消費者団体が消費者庁に垂れ込みをして、消費者庁から法務大臣への通知でもいいですし、適格消費者団体が直接法務大臣に言ってもよい。

恐らくは消費者庁経由が現実的かもしれませんが、いずれにせよ、適格消費者団体が解散命令の申立てを利用してくれとお願いすべき場面は、現にあるのではないかという気がしました。適格消費者団体自らが申立てをしなくても、別に構わないと思いますので、もちろん、それができればよりよいということではあると思うのですが、そこの点を確認したいと思っていました。


≪3.閉会≫

○後藤座長 どうもありがとうございました。

よろしいでしょうか。他にございますでしょうか。

それでは、本日は、御議論いただき、ありがとうございました。

最後に、事務局から事務連絡をお願いいたします。

○友行参事官 本日は、長時間にわたりまして御議論いただきまして、誠にありがとうございました。

次回の日程につきましては、決まり次第、お知らせいたします。

○後藤座長 それでは、本日はこれにて閉会とさせていただきます。

お忙しいところお集まりいただきまして、ありがとうございました。

○黒木座長代理 ありがとうございました。

○後藤座長 会議画面の赤色のアイコンを押していただき、御退席ください。

どうもありがとうございました。

(以上)

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