外務省・新着情報

令和4年8月16日
(写真1)マハティール首相と北村典子公邸料理人 マハティール首相と筆者
(写真2)会食の料理を作る北村典子公邸料理人 会食の料理を作る筆者

 在マレーシア日本国大使館の公邸料理人として、宮川大使の下で2014年の3月から大使公邸でお料理をお出ししています。公邸料理人の大きな仕事の一つは、大使がマレーシアの要人を公邸に招いてお食事でもてなす午餐会(ごさんかい)や晩餐会(ばんさんかい)を取り仕切ることです。お席は5、6人くらいの小規模なものから20人くらいまで様々です。当地のお客様は美味しい日本食を期待して公邸にお越しになられます。

 マレーシアは主にマレー系、中華系、インド系で構成される多民族国家であり、ムスリム(イスラム教徒)はアルコールや豚を食することを、またインド系(ヒンドゥ-教徒)は牛を食することを、それぞれ禁じられています。それらのお客様が一つの晩餐会に参加されることがしばしばあり、更にベジタリアンのお客様が加わると、献立作りには大いに悩まされます。
 公邸料理人はメニュー立案、仕入れ、仕込み、調理まで全てを一人で担います。機械的にお料理を作っているととても無機質なものになるので、私は出来るだけ参加されるお客様の情報を事前に集め、その情報を基にお料理のコースの中にこっそり正客の大好物や郷土料理、名物を作ってお出ししようと努めています。情報を集めれば集めるほどお客様へのイマジネーションが膨らみ、お客様が驚き喜ばれるその瞬間を想像しながら料理を作ることが張り合いにもなります。

 また、なかなかお目にかかれないような要人にお料理をお出しする機会もありました。それも公邸料理人の妙味というべきでしょうか。過去にはマレーシアのマハティール首相、日本からお越しになった皇太子殿下、外務大臣、国土交通大臣などにお料理をお出しする機会に恵まれました。要人のメニュー立案はいつも難産ですが、最終的には奇をてらったお料理より、お客様にお出ししているいつもどおりのお料理を、心をこめてお出しすることしかないという結論に達します。いずれにしても、このような方々にお料理をお出しできたことは料理人としての財産です。

 私は宮川大使がジュネーブで次席大使兼総領事を勤められた2007年から2009年にも公邸料理人を務めました。ジュネーブではフランス料理やイタリア料理など西洋の食文化の良さに触れました。また当地マレーシアでは東洋の食文化に親しみ、料理人としての引き出しが増えたと思います。公邸料理人にとって、料理の知識はもちろん、他言語を学ぶ機会に恵まれること、異なる文化に接し、見聞を深められることも大きな魅力であり、後の人生の糧となります。

 マレーシアで和食といえば寿司や天ぷら、鉄板焼きと答えが返ってくるほど皆さん和食に親しんでいます。ただ本格的な懐石料理のお店はまだありません。いつかマレーシアにも本格的な和食のお店が出来ることを願っています。マレーシアの方の舌は確実に本当の美味しい和食を求めていますから。

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