外務省・新着情報

令和5年8月1日

 多様な人種、民族の共生を実現している「レインボー・ネーション」である南アフリカへの訪問は、私が前々から強く望んでいたものであります。国際社会が歴史の転換期を迎える中、これまで築き上げてきた両国の「絆」をより一層強いものとするべく、今回南アフリカを訪問することができたことは大変感慨深く感じています。

 私は、歴史の転換期にある今日の国際社会の中で、日本と南アフリカが果たすべき役割は大きいと感じています。第二次世界大戦の荒廃から復興を成し遂げた日本、アパルトヘイトを乗り越え多様な人種、民族の共生を実現している南アフリカ、いずれも平和と安定、そして繁栄の土台となる国際秩序の堅持に向けた重要なプレーヤーであり、お互い連携して取り組むことが重要です。
 ロシアによるウクライナ侵略は、法の支配に基づく国際秩序をないがしろにする暴挙であり、このような力による一方的な現状変更が認められては、平和で安定した国際社会は実現しません。これは単に欧州の問題ではなく、今日のウクライナは明日の東アジア、アフリカかもしれません。このような危機感から、日本も南アフリカも一日も早くこの侵略を止めるべく取り組まねばなりません。
 日本は、G7議長国として、アフリカ各国の「声」にも真剣に耳を傾け、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の堅持に向けて力強いメッセージを発しました。南アフリカもまた、ウクライナ和平ミッションを主導し、ウクライナの平和の実現に真剣に取り組まれています。
 ウクライナ侵略は、食料危機や肥料価格の高騰も引き起こし、アフリカ諸国にも大きな影響を及ぼしています。ロシアによる黒海穀物イニシアティブの終了は、この状況を悪化させるものであり、極めて遺憾と考えています。ロシアが国際的な枠組みに復帰し、ウクライナからの穀物輸出が再開されるように協力していきたいと思います。
 日本と南アフリカは、両国の歴史から人一倍平和と安全の重要性を噛みしめており、そのためには法の支配に基づく国際秩序が不可欠であることを理解しています。力による一方的な現状変更によりこの秩序が脅かされることは許されるべきではなく、そのために両国で手を携えて取り組むことが重要です。ウクライナにおける公正かつ永続的な平和を実現するためには、一日も早くロシアが撤退することが不可欠であり、南アフリカを含むアフリカ諸国とも協力していきたいと思います。

 二国間経済関係に目を向けると、日本は南アフリカの第5位の輸出相手国となっています。南アフリカでの日系企業の進出拠点は266を数え、アフリカにおける一大経済拠点となっています。近年では特に、人類共通の課題である脱炭素の実現に向け、日本と南アフリカの間ではエネルギー移行に資する水素等の分野で協力を深めています。また、エネルギー移行に必要な重要鉱物が豊富な南アフリカには、引き続き多くの日本企業が高い関心を有しています。さらに、最近は、南アフリカからのルイボスティーの輸入量が急増しています。
 製造業分野でも、自動車メーカーや、自動車部品サプライヤーといった多くの日系企業が、これまで南アフリカで投資を積み重ね、現地で生産活動を行い、産業発展・雇用拡大に貢献してきています。経済関係に止まらず、製造業分野の人材育成を目的とした職業訓練のためのアカデミーを設立し、将来のキャリアまで支援する形で南アフリカの発展に貢献している企業もあります。
 日本としては、このような経済分野での関係強化のほか、科学技術や学術交流においても南アフリカとの協力を促進していく考えです。日本とアフリカが冷戦直後の1993年に、他国に先駆けて立ち上げたアフリカ開発を協議するTICAD30周年となる本年も、両国の間の「絆」を踏まえ、より重層的な協力関係の実現に取り組んでいきます。

 こうした「絆」を紡いだ功労者の1人が、本年1月に惜しまれながらも亡くなられたフレネ・ジンワラ南アフリカの初代国民会議議長です。TICADの発展にも尽力いただきました。また、ジンワラ議長は、人間の安全保障の考え方の普及にも大きな功績を残されました。不確実性が増す国際情勢において、人々が脅威に晒されることのないよう人々の命、暮らし、尊厳を守る、「人」に着目した人間の安全保障のアプローチは益々重要であります。ジンワラ議長が南アフリカの発展、そして日本と南アフリカの関係の強化に果たされた多大なる尽力をなされたことにこの場を借りて敬意を表したいと思います。
 TICADの昨年の会合では、「人」に着目したアプローチで「共に」成長していくことにコミットしました。国際社会が転換期にある今日こそ、民主主義や法の支配といった価値や原則を共有する日本と南アフリカ、そして両国の人々の間の「絆」を強固なものとし、関係を更に発展させていくことが重要だと考えています。


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