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感染症エクスプレス@厚労省 2023年9月19日

IDES養成プログラム9期生:松平 慶

 国内外での人の往来が活発になった今夏、田舎に家族で帰省した方や久々の海外旅行に飛び立った方もいるかと思いますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。
 
私は今年4月よりIDES養成プログラムでの勤務を開始し、まず厚生労働省本省での感染症危機管理業務を研修させていただきました。今年5月の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の五類感染症への移行から、次なる新興感染症対策を厚生労働省で逐次進めていますが、改正感染症法に基づく予防計画策定に向けてのガイドラインを各都道府県に今年5月に公表し、また医療DX推進として感染症対策のデジタル化や新感染症サーベイランスシステムの運用を進めております。また、国際案件としては、G7広島サミットの現地医療対策本部での感染症対策のリエゾンや一類感染症疑い患者発生時の対応フローの構築、国際保健規則に基づく各国やWHOとの対応を経験しております。
 
さて、前職の東京都では、自治医科大学の卒後、離島(伊豆諸島、小笠原諸島)、山間部(奥多摩)での地域医療勤務を経験し、2020年から東京都の公衆衛生医として主に島しょ保健所でのCOVID-19対策などの健康危機管理業務、また、オリンピック・パラリンピック開催時のCOVID-19対応に携わっていました。
 
地域での感染症対策について、臨床医としては「感染臓器」「微生物」「抗菌薬」の感染症の三角形の視点を意識するとともに、感染症の分布や人口、地理、気候、文化、交通路等を含めた「地域特性」、また地域の保健医療の人的・物的資源が限られる中での「保健医療資源」を踏まえて診療することが重要と実感しています。
例えば、伊豆諸島では、古来より七島熱と称されていたつつが虫病が分布し、台風や梅雨の影響で1週間以上、交通路が途絶えることがあるなどの「地域特性」があります。
 
また、小笠原諸島では、サルモネラ菌の環境中の分布が報告されており、動物由来感染症の普及啓発を保健所を中心に連携して行っている「地域特性」があり、また週1回24時間の船便が唯一の交通路のため、島への食料品・医薬品の搬入、また本土への患者搬送・検体輸送も週1回となる「保健医療資源」の特性もあり、地域のミクロからマクロまで捉えて感染症対策を行う必要を実感しました。培養検体やPCR検体等を本土の検査機関に送付する必要があり時間を要するため、病歴・身体所見・グラム染色といった臨床医としての基礎のスキルが武器となりました。
 
一方で、東京都の離島は医療機関が限られ、小児から高齢者まで各年代受診するため、感染症流行状況や予防接種の接種状況が分かりやすく、保健師等の行政と共同して予防啓発活動を展開できるメリットがあり、どの地域でも
「彼(患者)を知り己(医療環境)を知れば百戦(治療)殆うからず」と捉えて予防・診療・対策を行うことができると考えています。
 
また、地域の感染症対策においては、主なる感染経路が本土からの交通機関が発着する港湾施設に限られており、
COVID-19流行初期は如何にしてCOVID-19の島内での流行を防ぐか、またCOVID-19罹患者を如何にして本土に搬送するか、関係機関での打合せを連日重ねて感染症対策、搬送体制構築を行ってきました。
 
地域では、感染症対策のみならず災害対策を含めて幅広い健康危機管理が求められ、地域のハザードと曝露と脆弱性を踏まえて、オールハザード・アプローチによるリスクアセスメントを行うことが大切になります。国・都道府県・区市町村の各レベルで地域の分析を行いつつ、国レベルでは国際保健規則の合同外部評価の評価を元として健康危機管理能力の向上を常に行う必要があるとミクロからマクロまでの行政に関わる中で実感します。
 
私自身は、この9月から国立感染症研究所で、2020年新設の感染症危機管理研究センターで感染症危機管理を体系的に学んでおり、今後、検疫所や国立国際医療研究センター、そして国外研修など多角的に感染症危機管理を引き続き学んで参ります。
国でもこの9月より内閣感染症危機管理統括庁が発足し、また厚生労働省内も組織改編により結核感染症課から感染症対策部感染症対策課に移行しています。IDES10期生の募集が9月末までと迫っていますが、新体制の下で一緒に感染症危機管理に取り組む皆様をぜひお待ちしています。
 
【参考資料】
・東京都保健医療局 島しょ保健所大島出張所 「保健所だより(令和5年秋号)」(p.3 「ツツガムシに気をつけよう!」)
https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/tousyo/oshima/hokensho/e042300020230911104015562.files/2023No3.pdf
・東京都保健医療局 島しょ保健所小笠原出張所 「小笠原におけるサルモネラによる感染症及び食中毒予防のための取組 ~動物を触った後には手洗いを~」
https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/tousyo/ogasawara/salmonlla-syokucyudokutorikumi.html
・厚生労働省 JEE(IHR合同外部評価)の外部評価書公表について
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_01449.html
 

(編集:鍋島 清香) 

  • 当コラムの見解は執筆者の個人的な意見であり、厚生労働省の見解を示すものではありません。
  • IDES(Infectious Disease Emergency Specialist)は、厚生労働省で平成27年度からはじまったプログラムの中で養成される「感染症危機管理専門家」のことをいいます。

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