外務省・新着情報

冒頭発言

【上川外務大臣】本日、ここ「国際法の首都」ハーグにおいて、国際司法裁判所(ICJ)を訪問しました。世界が分断と対立を深める中、平和のために国際社会における「法の支配」を推進し、一人一人の「人間の尊厳」が守られる安全・安心な世界を実現すること。これは、日本が、また、私(大臣)自身が政治家として、最も大切にしてきた目標の一つです。本日は、ドノヒューICJ所長とお会いし、「法の支配」や「人間の尊厳」のためにICJが果たしている役割に対して、日本の力強い支持を改めてお伝えし、日本の強みを活かしてどのような協力ができるか意見交換を行いました。午後には国際刑事裁判所(ICC)を訪問して、今後の更なる連携を模索したいと考えています。また、来週には国際海洋法裁判所(ITLOS)を訪問予定です。

 日本は、昨年、G7議長国として、武力による領土取得の禁止や国際法の誠実な遵守を通じた「法の支配」を目指すといったメッセージをまとめ、世界に向けて発信してきました。これは同時に、「法の支配」の脆弱さにより平和と安全が脅かされている国際社会の現実に対する危機感でもあります。国際社会では、当事国の合意がなければ国家間の裁判は成り立たず、国際裁判に背を向けてしまえば、平和を損なう違法な行動を正す機能は働きません。しかし、昨年ドノヒューICJ所長が述べたとおり、「法の支配」が降伏の白旗を振っている場合ではありません。私(大臣)としては、日本の強みを活かした「法の支配」の強化のためのパッケージとして、今後更に、次の3つの柱を全体的に推し進め、今回の一連の訪問の成果も取り入れながら、今年の外交日程も念頭に、具体化できたところから随時実行していきたいと考えています。

 第一に、「法の支配」の国際的な側面として、国際法が誠実に遵守される国際社会を目指さねばなりません。そのためには、国際裁判所の役割を高めることが不可欠でありますが、ICJでの裁判に応じることをあらかじめ宣言する強制管轄受諾宣言を行っている国は74か国しかありません。日本は、ICJの強制管轄受諾宣言やICCローマ規程の締結をまだ行っていない国々に対して、有志国と共に連携しながら、これを呼びかけていきます。 ICCローマ規程の締約国数も123か国に留まっているという状況にもあります。また、勧告的意見といったICJの活動に対して、陳述書の提出や口頭弁論への参加を通じて、日本としてできる限り貢献していきます。さらに、アジア太平洋地域におけるICC普及のために日本が更なる役割を果たす具体的な方策を、ICCや地域の国々と共に、模索していきます。

 第二に、国際社会における「法の支配」の強化のために各国の国内において「法の支配」を浸透させていくことが重要と考えます。この観点でも、日本の強みを活かした協力を強化していきます。日本は、アジア・アフリカでの法制度整備支援に多くの実績があります。また、ICCとの協力でも、10年近くICCの被害者信託基金に任意拠出を行い、アフリカの紛争下で性的暴力被害に遭った女性たちを支援してきました。国内における「法の支配」が各国に広がれば、社会における予測可能性、透明性、公平性の向上につながり、「人間の尊厳」が守られる安全・安心な社会の実現の基礎ができます。今年、東京でTICAD閣僚会合を開催します。日本の強みを活かして、アフリカと「法の支配」の分野でどのように協力を強化していくか、更に具体的な検討を進めていきます。

 第三に、只今申し上げた国際・各国国内の両方の「法の支配」の促進のための取組には、これに従事する人材が不可欠であることから、国際法務人材の育成に貢献していきます。日本は、JICAやUNAFEIによる長年にわたる研修員の受入れや、昨年外務省が立ち上げた実務者向けの国際法研修「東京国際法セミナー」を通じて、アジア・アフリカの人材を育成してきました。UNAFEIはICCとも協力合意書を交わしています。このような人材育成の取組を更に充実させていきます。また、国際裁判所や国際機関で活躍できる日本人を更に多く育成するにはどうすればよいか関係省庁と真剣に検討していきます。

 「法」は、公正で公平な社会を実現するために不可欠なものです。これは、国際社会においても同様です。こうした「法」を重視し、誠実に実践してきた日本の経験を活かして外交を展開していきます。「法」は振りかざすものではなく、国家であれ人であれ、他者を尊重し自らを律することで互いに平和と幸福を享受するために、対話と協力を通じて共に努力し、法遵守の文化を根付かせていかなければなりません。私としては、今後、外務大臣として、対話と協力に基づき、国際社会における「法の支配」の強化のための外交を包括的に進めていく考えです。

 最後に、この後、ルッテ首相を表敬し、ブラウンス・スロット外相と外相会談を行います。オランダとは400年以上に及ぶ歴史を共有し、価値と原則を共有する重要な戦略的パートナーです。「自由で開かれたインド太平洋」に向けた連携や、NATOの文脈における協力を含め、しっかりと議論したいと思います。

質疑応答

【記者】国際法、国際裁判所への日本の貢献については詳しく言及いただきましたので、ここではこの後控える外相として初めてのワシントンDCへの訪問について伺います。今回の訪米で期待される成果と意義について改めて伺います。加えて、今年早期には岸田首相の訪米が予定されています。秋には米大統領選がある中、今回の訪米では大臣としてどのような点に力点を置かれるか伺います。

【上川外務大臣】今回は、昨年9月に外務大臣を拝命して以来、初めてのワシントンDC訪問となります。これまでも、ブリンケン国務長官とは緊密に連携してきていますが、新年のこのタイミングで、ブリンケン長官はじめ米関係者との間で、今年1年とそれ以降を見据え、率直に意見交換する考えです。
 具体的には、国際社会の分断や対立が深まる中、インド太平洋地域及び世界の諸課題に対処する上で、日米同盟が果たすべき役割は益々大きくなっています。日米同盟協力に加え、日米韓、日米比、日米豪印などを通じた協力を深化させていくことが重要です。本年早期に予定される岸田総理による米国への公式訪問等を見据え、これらの点について日米間でしっかりと議論します。
 また、ロシアによるウクライナ侵略や中東情勢をはじめとする国際情勢についても改めて意見交換する予定です。特に、私(大臣)はウクライナやポーランド等を訪問しました。ブリンケン長官はイスラエルやアラブ諸国を訪問したところであり、こうしたお互いの取組について直接情報を共有し、如何にしてG7を中心とする同志国の連携を続けていく、また強化することができるのかについても議論する考えです。


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