環境省・新着情報

2024年06月07日

環境省ナッジ事業の結果について ~電力消費昼シフト実証(上げ・下げDRによるピークカット・ピークシフト及びCO2削減)~

1.環境省では、2050年カーボンニュートラル及び2030年度削減目標の実現に向け、脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動、「デコ活」を推進しています。

2.また、環境省では、2017年4月よりナッジ(英語nudge:そっと後押しする)やブースト(英語boost:ぐっと後押しする)を始めとする行動科学の知見を活用してライフスタイルの自発的な変革を創出する新たな政策手法を検証するとともに、産学政官民連携・関係府省等連携のオールジャパンの体制による日本版ナッジ・ユニットBEST(Behavioral Sciences Team)の事務局を務めています。

3.この度、「デコ活」の一環の取組として実施している「ナッジ×デジタルによる脱炭素型ライフスタイル転換促進事業」で採択された事業者のうち、株式会社サイバー創研及び株式会社電力シェアリングが令和5年度に実施した、(1)上げ・下げDR(デマンドレスポンス)を通じて家庭の電力消費を再生可能エネルギーの比率の高い、晴れた昼間の時間帯へシフト(「昼シフト」)してCO2排出削減を実現することや(2)街中の充電スポットにおける電気自動車(EV)の充電を再生可能エネルギーの比率の高い、晴れた昼間の時間帯へシフト(「昼充電」)することに関する予備的な実証実験の結果についてお知らせします。

■ 詳細

 (1)については、節電や昼シフトに関する意識が統計的有意に高まることが実証されました。(2)については、再生可能エネルギーの有効利用とCO2排出削減に資する昼充電の意義を伝え、昼充電の実施に応じた少額の金銭的インセンティブを付与することで、昼シフト・上げDRの効果としての「昼充電実施者の増加率」が統計的有意に高まることが実証されました。
 今後は、上記の結果を踏まえて、実施期間や規模、介入内容を見直し、地域毎の再生可能エネルギーの有効活用とCO2排出削減の実現に向けて、エネルギー事業者、EVのユーザー団体や充電サービスに関わる事業者、昼充電に係る団体、複数の地方公共団体等との連携により、令和6年度において社会実装時のビジネスモデルを念頭に更なる実証実験を実施する予定です。

(1)上げ下げDRを通じた家庭の電力消費の昼シフトとCO2排出削減の促進

■ 予備実証実施期間
 令和5年11月から12月(1ヶ月間)
 
■ 実証実験参加世帯及び介入内容
 調査会社のモニタ1,200人を無作為に以下の3つのグループのいずれかに割り当てました。

  •  比較対象としてナッジを提供せず、電力消費量のデータの提供を求めるグループ(対照群)
  •  対照群の内容に加え、スマートフォンのアプリを通じて、過去1年分の電力消費量のデータ等に基づく日々の予測電力消費量(基準値)を示して省エネを依頼するとともに、日々の環境配慮行動(脱炭素アクション)を記録してその実施数やモニタ毎の期間平均炭素強度(CO2排出係数:g-CO2/kWh)に基づいたスコアやランキングを表示するグループ(介入群1) 
  •  介入群1の内容に加え、日々の予測電力消費量を下回る電力消費量である場合や環境配慮行動のランキングが上位である場合に金銭価値のある少額のポイントを付与するグループ(介入群2)

■ 結果
 まず、意識面において、「いつもより節電した」や「いつもは夜に使用している電力を昼間に使うようにした」という質問に対してそれぞれ「おおいに当てはまる」や「ある程度当てはまる」と回答した割合が、いずれの介入群においても対照群と比較して統計的有意に高いことが実証されました(図1・図2)。介入群の間においては、統計的有意差は検出されませんでした。
 次に、行動面において、実証実験実施期間中の電力消費量と前年同時期の電力消費量との比較(差の差の検定)により、いずれの介入群においても対照群と比較して昼間の電力使用量率(一日の電力使用量に占める昼間の電力使用量の割合)が増加する傾向が見られましたが、統計的有意差は検出されませんでした。

図1.「いつもより節電した」への回答

図2.「いつもは夜に使用している電力を昼間に使うようにした」への回答

■ 今後について
 令和6年度においては、令和5年度の予備的な実証実験の結果を踏まえて、実証実験の参加世帯数や実施期間、介入内容の見直しを行い、エネルギー事業者や複数の地方公共団体等との連携により、社会実装時のビジネスモデルを念頭にして更なる実証実験を実施する予定です。
 とりわけ介入内容については、どのナッジの要素に効果があるのか、要素間の相乗効果があるのか等の識別ができるようにグループを細分化するとともに、一般的に電力需要の価格弾力性が小さいとも言われる中で、メリハリのある分かりやすい料金メニューをあらかじめ提示して消費者に訴求するため、昼間の特定の時間帯の電力料金を抜本的に低減させること等を予定しています。

(2)街中の充電スポットにおけるEV昼充電の促進

■ 予備実証実施期間
 令和5年11月(3週間)
 
■ 実証実験参加者及び介入内容
 EVの充電サービス事業者(ENECHANGE株式会社)の顧客を無作為に以下のグループのいずれかに割り当て、実験期間の間に同事業者の充電スポットで1回以上充電をした人を対象に効果を検証しました。

  •  比較対象としてナッジを提供せず、充電サービス事業者のスマートフォンのアプリでEVの充電内容を記録するグループ(対照群:180人)
  •  対照群の内容に加え、昼充電の意義として再生可能エネルギーの比率の高い時間帯における充電がCO2排出削減に貢献することを伝えるとともに、少額の金銭的インセンティブとして昼充電の実施に応じてクーポン(1回当たり50円相当)を提供するグループ(介入群:179人) 

■ 参加者毎の期間平均炭素強度の算定について
 本事業の実施事業者(株式会社電力シェアリング)が開発した独自特許技術(電力消費の昼シフト等による環境価値を定量的に算定・相対評価した上で消費者に見える化し、同環境価値の取引を可能とする技術)を用いて、参加者毎の期間平均炭素強度(CO2排出係数:g-CO2/kWh)を算定しました。
 
■ 結果
 対照群と介入群の間の比較において、昼充電実施者の割合に関して統計的有意差が検出されました。昼充電実施者の割合は、対照群では58%であったのに対し、介入群では90%となり、昼シフト・上げDRの効果としての昼充電実施者の増加率は54%となりました(図3)。
 また、昼充電率(総充電回数に占める昼充電回数の割合)、昼充電電力量率(総充電電力量に占める昼充電による充電電力量の割合)、参加者毎の期間平均炭素強度に関して、統計的有意差の検出には至らなかったものの介入によりいずれも向上する傾向が見られました。
 本予備実証においては、複数のナッジの要素を組み合わせた介入を実施しており、結果からはどの要素に効果があったのか、要素間の相乗効果があったのか等については識別できず、今後の本格実証における課題として残っています。また、実施期間や実験参加者数に関して小規模で実施した予備的な実証実験であったことから、本格実証においては、実験期間を延長したり、より多くの参加者に協力いただいたりして実施する予定です。

図3.各グループのEV昼充電実施者の割合

■ 今後について
 令和6年度においては、令和5年度の予備的な実証実験の結果を踏まえて、実証実験の参加人数や実施期間、介入内容の見直し(とりわけ、どのナッジの要素に効果があるのか、要素間の相乗効果があるのか等について)を行い、EVのユーザー団体(一般社団法人テスラ・オーナーズ・クラブ・ジャパン等)や充電サービスに関わる事業者(ENECHANGE株式会社)、昼充電に係る団体(EV昼充電協議会等)、複数の地方公共団体等との連携により、社会実装時のビジネスモデルを念頭に、ナッジ等の行動科学の知見を活用した自発的な行動変容や機器制御を通じて、自宅及び街中それぞれにおける本格的なEV昼充電の実証実験を実施する予定です。
 また、社会実装に当たっては、株式会社電力シェアリングが開発した上述の独自特許技術により、国際的に導入が検討されているHourly Matchingの手法に基づいてEVユーザーや一般消費者、プロシューマ等を含む地域全体脱炭素努力の効果を見える化することで、地域と市民の主導により地域脱炭素を実現するBI-Techモデルを構築し、日本発の先駆的なグリーンイノベーションの好事例とすることを目指しています。

■ 関連する報道発表等

  • 環境省ナッジ事業の結果について~再エネの有効利用に向けたEV昼充電の促進~ 

   https://www.env.go.jp/press/press_03007.html
   (令和6年3月29日付け環境省報道発表)

  •  EVの「昼充電」やV2Gのタイムシフトによる環境価値を創出し取引する技術の特許を取得(特許第7246659号)

   https://www.d-sharing.jp/blog/5f64ac49ea4
   (令和5年4月7日付け株式会社電力シェアリング発表)

 

■(参考1)デコ活(脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動)について

 2050年カーボンニュートラル及び 2030年度削減目標の実現に向けて、暮らし、ライフスタイルの分野でも大幅な温室効果ガス削減が求められます。
 そこで、国民・消費者の行動変容、ライフスタイル転換を強力に促すため、衣食住・職・移動・買物など生活全般にわたる国民の将来の暮らしの全体像「脱炭素につながる新しい豊かな暮らしの10年後」を明らかにするとともに、企業・自治体・団体等と一緒になって、豊かな暮らし創りを強力に後押しすることで、新たな消費・行動の喚起とともに、国内外での需要創出・マーケットインにもつなげていきます。

※「デコ活」とは
 「脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動」の愛称であり、二酸化炭素 (CO₂)を減らす(DE)脱炭素(Decarbonization)と、環境に良いエコ(Eco)を含む”デコ”と活動・生活を組み合わせた新しい言葉です。
 https://ondankataisaku.env.go.jp/decokatsu/
 

■(参考2)日本版ナッジ・ユニットBESTについて

 日本版ナッジ・ユニットBEST(Behavioral Sciences Team)は、関係府省庁や地方公共団体、産業界や有識者等から成る産学政官民連携のオールジャパンの取組です(事務局:環境省)。ナッジ(英語nudge:そっと後押しする)やブースト(英語boost:ぐっと後押しする)を始めとする行動科学の知見(行動インサイト)に基づく取組が政策として、また、民間に早期に社会実装され、自立的に普及することを目的に、環境省のイニシアチブの下、2017年4月に発足しました。その後、同年10月のノーベル経済学賞の受賞分野が行動経済学であったことの後押しもあり、取組が深化し、連携体制が次第に強化されています。どのような取組も、地域に根付くものとするためには、関係するあらゆるステークホルダーを巻き込んでいくことが必要不可欠です。このため、行政内に限った取組ではなく、参加者が同じ立場で自由に議論のできるオールジャパンの実施体制としています。
 https://www.env.go.jp/earth/best.html

 ○日本版ナッジ・ユニットBEST のウェブサイト(会議資料、報道発表等)
  https://www.env.go.jp/earth/ondanka/nudge.html
 ○平成29・30年度年次報告書(日本版ナッジ・ユニットBEST活動報告書)
  https://www.env.go.jp/earth/ondanka/nudge/report1.pdf
 ○報告書「ナッジとEBPM~環境省ナッジ事業を題材とした実践から好循環へ~
  https://www.env.go.jp/earth/ondanka/nudge/EBPM.pdf
 ○ナッジ等の行動インサイトの活用に関わる倫理チェックリスト ①調査・研究編
  https://www.env.go.jp/earth/ondanka/nudge/checklist_study.pdf
 ○ナッジ等の行動インサイトの活用に関わる倫理チェックリスト ②社会実装編
  https://www.env.go.jp/earth/ondanka/nudge/checklist_deploy.pdf
 ○我が国におけるナッジ・ブースト等の行動インサイトの活用の広がりについて
  https://www.env.go.jp/earth/ondanka/nudge/hirogari.pdf

連絡先

環境省地球環境局地球温暖化対策課デコ活応援隊(脱炭素ライフスタイル推進室)
代表
03-3581-3351
直通
03-5521-8341
隊長
島田 智寛
隊長補佐
池本 忠弘

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