厚労省・新着情報

労働基準局安全衛生部労働衛生課

日時

令和6年5月10日(金)13:00~

場所

中央合同庁舎5号館専用第15会議室

議題

  1. (1)労働安全衛生法に基づく一般健康診断の現状と課題等に関する構成員からのヒアリング
  2. (2)「労働安全衛生法における一般定期健康診断の検査項目等に関する社会状況等の変化に合った科学的根拠に基づく検討のための研究」報告
  3. (3)論点について

議事

議事内容
○夏井産業保健支援室長補佐 それでは、ただいまより「第3回労働安全衛生法に基づく一般健康診断の検査項目等に関する検討会」を開催させていただきます。構成員の皆様におかれましては、御多忙の折、御参加いただきありがとうございます。本検討会は、資料及び議事録は原則公開といたします。報道関係者の皆様、カメラ撮影はここまでとしてください。
 本日の出席状況でございます。構成員の皆様全員に御出席頂いております。また、荒井構成員、大下構成員、大須賀構成員、中野構成員、武藤構成員、吉村構成員におかれてはオンラインで御参加いただいております。
 次に、オンラインで御参加いただいている構成員の皆様に、御発言の仕方などを御説明させていただきます。会議中、御発言の際は「手を挙げる」ボタンをクリックし、座長の指名を得てから、マイクのミュートを解除し御発言をお願いいたします。御発言終了後は再度マイクをミュートにしてくださいますようお願いいたします。また、議題に対しまして御賛同いただく際には、カメラに向かって頷いていただくことで、「異議なし」の旨を確認させていただきます。
 次に、資料の確認をいたします。本日の資料は事前にお送りしておりますとおり、議事次第、資料1、2、3、4、参考資料1、2になります。このあと議事に沿って画面共有にて御覧いただきますが、不足等ございましたら事務局よりお送りいたしますので、オンラインで御参加の構成員の方におかれましては事務局のほうまでお申し出ください。
 それでは、以降の議事進行につきましては髙田座長にお願いいたします。
○髙田座長 本日は、議事次第にございますように、「労働安全衛生法に基づく一般健康診断の現状と課題等に関する構成員からのヒアリング」を行います。初めに、議題(1)ですが、使用者団体の立場から全国中小企業団体中央会の及川構成員から、続きまして労働者団体の立場から日本労働組合総連合会の冨髙構成員より、それぞれ15分間御発表いただきたいと思います。その後、15分間程度の意見交換の時間を設けておりますのでよろしくお願いいたします。
 それでは、まず及川構成員から御発表をお願いいたします。
○及川構成員 
全国中小企業団体中央会の及川でございます。本日は中小企業の意見を述べる機会をいただきましてありがとうございます。
 私のほうでは、「中小・小規模事業者の経営課題と健康増進への活動及び「一般健康診断」の項目に関する考え」という資料でございます。前半では、現在の中小・小規模事業者の経営課題が何なのかというお話をするとともに、私ども中小企業の支援機関として今やっている取組・活動について少し述べさせていただきまして、最後に、一般健康診断の項目に対する私どもの意見を述べさせていただきたいと思います。
 それでは1ページを御覧ください。私ども全国中央会の月次景況で、2,600人くらいの景気ウォッチャーの方からのヒアリングです。現在の中小・小規模事業者における経営課題は、人手不足・人材の確保ということでございます。「経営上の障害」にございますように、最も多いのは諸物価の高騰、光熱費・原材料・仕入れ品の高騰ということで、57.7%となっています。その次に人材の問題がございます。特に人手不足につきましては、48.4%、39.2%と大変高くなっています。
 そういった中で、2ページ目で幾つか生声を紹介しております。宮城県の機械金属団地の組合企業から、中小企業にとって慢性的な課題として人手不足がある、とりわけ建設業やサービス業等の人手不足が極めて強いということです。福島の電気通信のところでは、若年層の退職が多いという問題、あるいは京都のパン製造業の組合員企業からは、人手不足により閉店しなければならないという事態、あるいは、沖縄からですが、特に熟練工の仕事が少なくなっているので納期に合わせるのが大変である、生産が追いつかず断るということで、せっかく目の前に仕事がありながらそれに対応できないという苦しさを述べた声が多くあります。
 3ページ目です。全国中央会と47都道府県中央会の「令和5年度中小企業労働事情実態調査」を行っています。人手不足の中で、中小企業ですと女性の活用、高齢者の活用ということになってまいりますが、このグラフにありますように、近年は女性の労働者もなかなか確保できない状況にございます。
 4ページ目です。中小企業におきましては、女性の従業員は「正社員」という方が56.1%ございます。中小企業におきましては、女性の活用として、正社員、パートタイマーでも常用、人をしっかり確保したいということかと思います。このような状況になっています。
 5ページを御覧ください。高齢者のほうを見てみますと、60歳以上の高年齢の雇用状況をみますと、全体で「雇用している」が80.5%となっていますが、この表にございますように規模が大きいほど高齢者の雇用の率が高いということで、女性もそうですけれども、高齢者のほうも中小企業のほうにはなかなか雇用が回ってこないということが推測されると思います。
 6ページを御覧ください。それでは、私ども中央会の取組について幾つか御紹介申し上げます。これは石川県の能美市の例でございます。商業者が集まって事業協同組合を作っています。よくポイントカードというものが作られると思いますが、このポイントの中に公的健康診断の受診者にポイント引換券を付与し、外出機会を捉えて、市内にあります温泉施設の利用者に来店ポイントを加算するということで外出の機会を多く作る、あるいは健康づくりのサポートをして、来店のきっかけづくりにしているという取組がかなり行われています。特に、最近買い物に来なくなったなという方の安否の確認をしているという例がございます。こういったものについて、私ども中央会では支援をしているところでございます。
 7ページ目です。1社1者の印刷業界がありますけれども、なかなかこういった健康増進のことに対応するのは難しいということで、協業組合という組合を作って、徳島県では平成18年に「健康とくしま応援団」に登録してくださいということで、それをスローガンに「社員の健康=会社の健康」ということで少しずつ、1社ではできませんけれども協同で、協業化することによって、まずもって禁煙をして「くるみんマーク」を取得して、定期健診をしっかりして、がん検診や健康指導ですとか、そういったことで中小企業の受診率を100%にして、次々と新しい項目を充実させていったという例でございます。1社ではできませんけれども、中小企業が集団になればということの例として掲げました。
 8ページ目です。商店街は今大変空き店舗が多いですけれども、熊本の例で、その空き店舗を活用して「よって館ね」、寄っていってくださいということで、健康づくり拠点にして、その中で血圧を測れたり健康や栄養の相談をしたり、あるいは健康グッズの販売や、いろいろな健康に関する書籍の貸出しをしたり、そのような地域に密着したコミュニティにある健康増進と商業の取組のコラボをしているところでございます。
 9ページです。私ども中小企業団体中央会としての例です。会員には生コンクリートですとか、ファッションや繊維の組合など、いろいろ中小企業の組合がございますけれども、特にコロナの中ではなかなか接種の予約が取れなかったということもございまして、集団で職域接種をして対応したという例でございます。そういったことの場を設けましょうということで、代表例として、大阪の中央会の支援の下、行ったという例がございます。
 10ページ目です。これは本当にかなり多くの事例がございますが、中央会が実施している取組として健康経営認定支援セミナーがございます。こちらは金融機関、銀行ですとか生・損保の会社が私ども中央会のほうに、一緒になってセミナーをしませんかというお誘いもあり、ジョイントしてこのようなセミナーがかなり多く行われております。
 この10ページの右側は、表題が「会社の成長を支える従業員と家族の健康」ということで、東京海上日動火災保険の方に来ていただいて講演いただくという例でございます。金融機関とのジョイントのセミナーというのはかなり多く行われておりまして、大変ニーズがあるセミナーになってございます。
 11ページを御覧ください。そうした取組を踏まえまして、最後に私どもの意見を述べさせていただきたいと思います。中小企業と申しましても多種多様でございます。336万の中小企業者がございますけれども、そのうち従業員20人以下というのが285万者で、85%です。そこが最大のボリュームゾーンでございます。そういった中小企業の最大の課題が、最初に御報告申し上げましたように構造的な人手不足ということでございます。そういった構造的な人手不足の中で、多様な人を活用する。特に女性ですとか高齢者、ハンディキャップを持っている方も含めて、多様な人材を活用しているということですが、そういったいろいろな働き方の労働者の安全と衛生の確保について、医学的なデータ、科学的な検証というのがまずもって重要であるというように認識をしております。
 その上で、労働安全衛生法の「一般健診制度」の制度目的を振り返ってみますと、業務に起因する一般に広く存在する発症の防止、疾病の悪化防止ということでございます。その中で、一般健康診断の検査項目の追加ということをとらまえますと、中小・小規模事業者という立場からしますと、規模を問わず全ての事業者に罰則付きで実施義務が課され、勤務時間中に受診する費用は追加費用を含めて事業者のコスト負担になってございます。事業者への結果通知ですとか、あるいは保管、セキュリティ、個人情報の問題、それから健康情報の管理、あるいは健康診断の後の結果の処理・対応、時短ですとか業務転換など、そういった業務上の適切な措置対応等の業務がございます。
 こういったものが負担になってきますが、それを鑑みますと、最後の◎に書きましたけれども、「一般健康診断」の検査項目は、事業者が対応をとるべき必要最小限の項目に限定して実施されるべきだと考えております。女性特有の疾病の配慮は、安衛法の「一般健康診断」とは別に、先ほどの健康経営認定支援セミナーのようにかなり中小企業にニーズがあるセミナーが行われていますので、それとの合わせ技で推進をすることが望まれるのではないかと考えております。したがいまして、「一般健康診断」の健康項目の追加は、極めて慎重な対応を求めるところでございます。
以上でございます。
○髙田座長 御発表、ありがとうございました。それでは続きまして、冨髙構成員、御発表をお願いいたします。
○冨髙構成員 ありがとうございます。連合の冨髙と申します。本日は発表の機会をいただきありがとうございます。労働者の立場から、一般健康診断の項目の見直しに向けた考え方について話をさせていただきたいと思います。よろしくお願いします。
 まず、資料1ページに「一般健診に関する連合の考え方」をまとめています。(1)一般健診の意義・目的ですが、労働者の個々人の健康状態を把握し、適切な健康管理を行うこと、それらを集約・分析することで、労働者の健康状態から職場に内在するリスクを発見し、職場改善を図ることだと考えています。労働者が安心して元気に働き続けるためには、一般健診を通じた一般的な健康確保が図られることが重要であり、一般健診は、業務遂行との直接の関連で行われる特殊健診とは性質が異なるという点を強調したいと思います。
 次に、(2)一般健診の効果です。これは労使双方の観点から見ていく必要があると思います。労働者にとっては、疾患の早期発見と早期介入によって職業生活を通じた健康の保持増進につながるものだと考えています。また、2つ目の矢印にありますが、事業者にとっては、労働者個人の労災の未然防止だけではなく、他者を巻き込むような災害の防止や、快適な職場環境の確保など、職場全体の環境改善につながるものと考えますので、労使双方にとってメリットがあるものと承知しています。
 2ページは(3)健診項目見直しの方向性についてです。現在の健診項目は「必要最低限」のものと認識していますので、現行の健診項目を維持するとともに、有効活用することを前提に、労働安全衛生法の目的に照らして、項目の拡充について検討すべきと考えます。検討に当たっては、3つ目の矢印にある第14次労働災害防止計画の重点対策、3ページに記載している赤枠で囲った項目ですが、それらの対策に寄与することを念頭に置きつつ、先にお話した一般健診の目的や効果に沿うように検討すべきと考えております。また、先ほどありました健康経営の取組が非常に重要だと考えています。組織の規模や、時々の経営状況などにより違いが生じる可能性もあります。本来、労働者であれば同じ安全衛生水準が享受されるべきであり、健康診断についても同様の水準が確保される必要があります。そのため、法定健診項目の充実という形で安全衛生水準の確保がされることが重要と考えます。
 1枚飛んで4ページを御覧いただきたいと思います。以降は、拡充が必要と考える健診項目についてお示ししています。まず、眼科系検査項目の充実です。皆様御承知のとおり、情報機器作業の増加や、オンライン会議の普及など、目を酷使する作業が増えています。また高年齢になっても働き続ける方が増加しています。視覚障害の原因疾患の8割は眼底の病気であり、転倒リスクも高いと言われていますので、目の疾患の早期発見は重要だと考えます。「検討の方向性」に記載のように、早期発見は、14次防で重点対策とされている転倒災害防止や、高齢労働者対策にも寄与すると考えますので、眼底検査などの項目の追加を検討すべきと考えます。
その背景について、左の図は、有償労働におけるパソコンなどの平均使用時間が増加傾向であること、右の図は、VDT作業に従事する労働者の7割弱の方に身体的な症状があり、うち9割が目の疲れ・痛みがあると回答しています。視力検査だけでは視覚障害は見つからず、眼の病気の早期発見には眼底検査が重要であると眼科医からも示されています。40歳未満でも眼底異常が見られることもありますので、高齢者のみならず若年層の検査も必要だと考えます。
 7ページに「職場の声」を記載しています。これは連合の構成組織や企業別組合に対して行った聞き取り調査の結果です。業務のデジタル化の推進によりパソコン等の使用時間が増えていることや、そのような職種では目が疲れるという声も聞きます。データからも緑内障が増加傾向にあるという単組の声も聞いています。また、目の疾患が転倒や墜落など重大災害に直結する職種もありますので、是非、検査項目の充実を図っていただきたいという声や、節目年齢で眼底検査が導入されているような企業もある中で、同じ労働者でありながら受けられる検査が異なるのは望ましくないので、是非、健診項目に加えて欲しいという声もありました。
 続いて、8ページは生活習慣病の検査についてです。9ページに掲載している厚労省の調査分析等によると、40歳未満においても生活習慣病に該当する方やその予備軍は一定程度存在しており、資料には記載していませんが、県単位で調査しているところでも同様の検査結果が示されています。生活習慣病は、自覚症状がなく進行することも多いため、早めに兆候を捉えることが、労働者の長い職業人生の中で重要だと考えます。「検討の方向性」としては、40歳未満であっても、30歳、35歳などの節目の年齢で、生活習慣病検査の実施をすべきと考えます。
 10ページでも、職場の声を示しています。「若年層の健康状態」ということで、座り仕事の増加や、仕事のストレス増加などに起因して生活習慣病が増加傾向にあることや、BMI適正者比率を見ると、若年層ではBMIの適正者比率が減少傾向にあるという声もありました。若年層における生活習慣病検査の実施については、予備群となる層の早期抽出の観点を含め、節目年齢での実施が望ましい、若年層は生活習慣病に関する意識が乏しいということから、重症化する前に症状を把握することは有益ではないかという声もあります。
 続いて11ページを御覧ください。こちらは更年期障害と月経障害に関する検査についてです。昨今の環境変化として、更年期障害や月経障害が労働者個々人の職業生活に与える影響だけではなく、12ページにもある通り、離職による社会全体への経済損失も認知されつつあると考えます。一方、職場では、症状のある人が言い出しやすい環境にあるかというと、なかなかそうではない状況だと聞いています。また、男性の更年期障害については、前回の検討会において、慎重な意見もあったと思いますが、職場の組合員からは、男性更年期も非常につらいものであるという声もあり、女性に限らず男性においても更年期障害が発症することに留意が必要だと考えます。検討の方向性としては、プライバシーへの配慮や、不利益な取扱いが起こらないようにすることを前提に、男女の更年期障害や月経障害について検査項目の追加を検討する必要があると考えます。また、併せて、自身の症状を言い出しやすい職場環境の整備を進めていく必要があると考えます。
 12ページは、NHKやJILPTなどによる、更年期と仕事に関する共同調査の結果ですが、症状のある方のうち1割弱が「症状が原因で仕事を辞めた」と回答しています。また、この調査結果を基にした二次分析では、40代・50代で更年期離職を経験した人は女性で46万人、男性11万人、合計57万人に上るとされ、仮にこの方たちが仕事を失った状態が1年間続けば、社会全体の経済損失は6,300億円に達すると推計されています。
 13ページは連合東京が2022年に実施した「生理休暇と更年期障害に関するアンケート」の結果です。40歳代以上の女性の4人に3人が更年期と思う症状を有しており、月経障害についても生理痛が「ある・あった」、「時々ある・あった」を合わせると9割以上の女性が症状を有しているという結果でした。ただ一方で、14ページを御覧いただくと、職場の仲間や家族から「生理痛」や更年期症状について見聞きすることの有無に関する質問ですが、「ある」との回答は全体で5割程度で、前のページと比較すると、多くの女性が更年期障害や月経障害を経験をしているものの、そのことが言い出しにくい状況にあると考えてます。
 また、15ページには「職場の声」を記載していますが、更年期障害については、実際に更年期障害が原因で退職した人が身近にいる、男性で更年期障害がひどい方もいるという声が寄せられています。月経障害については、周囲に理由を伝えにくい、理由を伝えても理解されにくい、休みづらい、社会全体で生理に対する理解が進むことを期待したいという声がありました。
 また、検査項目について、問診の実施を希望される声が多くありました。言い出しにくいと感じる方は少なくないので、問診で言い出すことができる環境整備が重要ではないか、問診であれば、回答したくないと思う方は回答しなくてもよいということで、問診を希望する声が多くありました。また、更年期以降の骨粗しょう症の発症リスクを踏まえ、骨密度検査を希望するという要望もありました。その他の要望として、意識啓発について職場環境の整備が重要な課題という声が上げられていること、また資料には記載していませんが、現行の検診項目の有効活用について、血液検査に基づき貧血や閉経後のコレステロール値を管理して女性の健康管理に役立てる、あるいは体重測定に基づき痩せすぎについても管理するようにしてはどうかという提案もあります。こういった現行の枠組みでの健康管理の充実という観点から、検討に加えて頂きたいと考えています。
 最後に16ページです。本検討会の所掌と一致するものではありませんが、一般健診の拡充と併せて、産業保健の機能強化について、検討が必要ではないかと考えます。中小企業を中心に、就労判定が十分に行うことができていないなど、産業保健機能が必ずしも機能しているとはいえない企業もあると考えます。健康診断の結果を適切に活用するためには、50人未満の事業場における産業医の選任義務を引き下げるとともに、地域の産業医、産業保健スタッフや、地産保センターによる企業のバックアップなども不可欠ではないかと考えます。
以上、一般健康診断の項目の見直しに向けた連合の考え方になります。労働者が健康を維持して、長く働き続けることができるよう、引き続きこの検討会の中で議論を重ねたいと考えています。ありがとうございました。
○髙田座長 御発表ありがとうございます。及川構成員から、資料1について、中小・小規模事業者の経営課題と健康増進への取組の状況、それから一般健康診断の項目に関する御意見を発表いただきました。続いて、冨髙構成員からは、労働者側の立場ということで、一般健康診断の項目の見直しに向けて、眼科系検査項目、40歳未満の生活習慣病検査や更年期障害・月経障害に関する検査についての御意見も含めて、御発表を頂きました。ただいまのお二人の御発表について、意見交換をしたいと思いますが、御質問、御意見のある構成員は御発言いただければと思います。神村構成員、お願いいたします。
○神村構成員 医師会の神村です。お二人の御発言の中では、やはり人材不足、働き手の不足を強く打ち出されているのが印象に残りました。例えば、女性であっても、現在就労していない方にとっても、月経の非常な困難、あるいは更年期障害の症状など、同じようにあるわけです。ですから、そういう方々が労働に参入できるような、もっと国民全体をカバーできるような視点というものが必要になってくると思います。実際のところ、そういう視点でやろうと思うと、住民健診の整備がまだまだ追いついていないと。それから、自治体の意欲もなかなか追いついていないという現状がありますと、やはり労働現場のほうが先んじて、そういうまだ参入できていないような方々も視野に入れて、まずは労働をしている方々の産業保健の分野での健康診断を組み立てていって、そして労働現場に入ってきていただいたときにそれが役立つということを国民に理解していただきたいと思っております。医師会としては、労働者だけでなく、もっと幅広に健康を考えたいのですが、まずは労働現場からきっちりとやっていただきたいということを考えております。以上です。
○髙田座長 ありがとうございました。そのほか、会場でありますか。オンラインのほうで手が挙がっているようですので、武藤構成員、お願いします。
○武藤構成員 冨髙構成員の御意見は、ごもっともだと思います。特に、最初の「健診項目見直しの方向性」の一番上に書いてあるのですが、現行の健診項目を維持しつつ、有効活用することが大前提だと。ここの部分は、私は前回も似たようなお話をしたのですが、例えば、せっかく健康診断をやっても余り有効に活用されていないと思っている事業者などが割といると思うのです。ですから健康診断は余り役に立っていないのではないかというような意見も出てくると思います。実際に我々が行ってみますと、健診の事後措置、あるいは就業上の措置をしっかり行いますと、有効に活用できるところもありますので、是非ここは重要な点として、基本的な項目として押さえておいていただきたいと思います。
 それから、眼底検査についても、我々は実際に眼底検査もたくさんやっているのですが、ここのグラフに出ているような眼科疾患の有病率は、確かにこのグラフと同じような印象を持っています。特に50歳以上の方では非常に有病率が高いという印象です。ただ、眼底検査は、実際に写真を撮ってみますと、モニターが暗くなっていると読影がしづらいとか、結構モニターの精度、あるいはもちろん読影する医師のスキルなどにも左右されますので、その辺りの精度管理は大事かと思っております。以上です。
○髙田座長 ありがとうございます。そうしましたら、オンラインで荒井構成員が御発言を希望ということでよろしいでしょうか。
○荒井構成員 荒井です。まず、及川構成員への質問です。ますます労働力が少なくなるに従って、高齢者の活用の重要性が増してくると思うのですが、中小企業ほど高齢者の活用がなされていないということです。60歳以上のデータをお示しいただきましたが、例えば65歳以上とか70歳以上でも同じような傾向なのかということ。その要因として考えられるのは、恐らく、大企業であればいろいろなタスクがありますので、高齢者は少し軽作業といったように、いろいろ就労のオプションが多いので、高齢者が長く働き続けられるのに対して、中小企業にはそういうオプションがないので、どうしても高齢者の雇用が進まないという背景があるのかということについてお伺いしたいと思いますが、いかがでしょうか。
○髙田座長 御質問ありがとうございます。及川構成員、よろしくお願いいたします。
○及川構成員 65歳以上の所は調査で区切りをしていないので、あるいは1件1件見ればそういうことができるのか、ちょっと見てみます。即答ができません。
 もう1つ、中小企業の高齢化のことですが、御指摘の所はやはり大きいのだと思います。大企業ですと、次のステージに向けて子会社や取引先や出向先など、いろいろな所で人材のフォローをしっかりできているところがあります。他方で中小企業は、人材不足と言いながらも、大企業からのOB人材は必要なのですが、どうもうまくマッチングできないところが実態としてあると思います。そういうことが進むようであれば、中小企業にとっても、人手不足の中で、大企業の知見のある方に活躍していただけるということで、大変望まれると思いますが、実態はなかなかそれが難しいということだと思います。
○荒井構成員 今後、できるだけ長く元気で働いていただくということが必要になってくると思いますので、それに対してどういう健診が必要かということは、しっかりと対策を練らなければいけないと思うのです。一方で、全ての人に満遍なく一般的な健診をすべきかどうかについても、議論が必要ではないかと思っています。
 現在は法律で皆さんの健診を受ける権利があるということで、恐らく皆さん健診を受けられていると思います。本当に毎年採血をしなければいけないかとか、業務の実態によって、有害物質を扱う場合は、もちろんそのリスクに応じた形での健診項目の選定は必要だと思いますが、冨髙構成員の話にあったように、視力の問題などは、ある程度業務によってパソコンを見る時間を制限するとか、予防的な観点から、すなわち健康経営とのセットで考えるべきかということも思っております。そのような予防をしながら、その中でミニマムな健診項目は何なのかと、それも毎年やらなければいけないものと、隔年、あるいは5年に1回でいいものというようにしっかりと分けながら、及川構成員もおっしゃっていたように、各健診一つ一つが企業に対しては負担になっておりますので、いかに効率的に健診を行うか、いかにミニマムに行うかということは、予防的なアプローチとセットで考えなければいけないのではないかと感じました。以上です。
○髙田座長 ありがとうございました。続いて、大須賀構成員が御発言を希望されているということでよろしいでしょうか。お願いいたします。
○大須賀構成員 まず及川構成員の御発表についてなのですが、やはり女性の労働力が必要であるという現状がよく認識できました。その上で、やはり労働において女性の労働力のパフォーマンスの低下、そして離脱、数の低下の2つを、やはり予防しなくてはいけないことかと思うのです。そう考えますと、冨髙構成員の御説明がありましたが、月経困難、若しくは更年期といったような女性特有の問題によってパフォーマンスが低下する、職場を離脱するということが多々見られるというわけですので、そういった疾患というのは基本的に早期発見と予防ができます。また、職場の労働負荷の状況によっては、むしろ予防ができ、パフォーマンスの向上や離脱の防止につながるということが考えられます。そういった観点から、健診項目に入れるという妥当性がよく理解できたのですが、冨髙構成員、そういう理解でよろしいのでしょうか。
○髙田座長 冨髙構成員、御発言をよろしくお願いいたします。
○冨髙構成員 予防ができるかということはもちろんあるのですが、そういった症状等を持つ労働者が働き続けることができる環境整備のためにも、検査項目に問診等を追加することは重要だと考えます。
○大須賀構成員 ありがとうございます。私も、そう思いました。
○髙田座長 ありがとうございます。吉村構成員に発言いただき、次に鈴木構成員に移ります。
○吉村構成員 吉村です。ほぼ大須賀先生と同じことを思っていたので、特に付け加えることはないのですが。結局、まず現状を知るということが予防の第一歩ですので、問診票は非常にリーズナブルだと私も考えました。以上です。
○髙田座長 ありがとうございます。お待たせいたしました。鈴木構成員、お願いいたします。
○鈴木構成員 経団連の鈴木です。及川構成員、冨髙構成員、御説明いただき、誠にありがとうございました。まず、及川構成員の御説明に対してコメントを述べさせていただきます。中小・小規模事業者における深刻な人手不足の状況、それから経営的にも厳しい状況がある中でも、働き手の健康の保持・増進に向けて、集団あるいは共同で取り組んでおられることがよく分かりました。
 もう1点は、一般健康診断の費用についてです。及川構成員も強調されていたとおり、実施に伴う費用は事業者の負担です。全ての事業者に罰則付きで健康診断の実施を求める以上、健診項目は必要最小限に絞り込むべきだと私も思います。及川構成員の御意見に賛同する趣旨で発言させていただきました。
 それから、せっかくの機会ですので、冨髙構成員に何点か質問させていただければと思います。2ページの最後の矢羽では、健康経営の取組の話と、産業保健サービスの提供の話が書かれておりますが、健康経営と産業保健の違いをどのように認識されておられるかを改めてお伺いいたします。
 2点目です。4ページで緑内障等の視覚障害を早期に発見するため、眼底検査等の眼科系検査項目の追加が必要ではないかという御説明があったかと思います。緑内障によって労働災害が発生した事例について、組合あるいは組合員の中で御存じであれば、御紹介いただければと思います。
 3点目です。10ページでは、若年層における生活習慣病検査の実施ということで、重症化する前の症状把握の有効性の御説明があったかと思うのですが、症状を把握した後、事業者として何をすることが望ましいとお考えなのか、お伺いしたいと思います。
 最後に、15ページでは、更年期障害等を含めた問診の実施を希望される方が多いという御紹介があったところです。本日引用された周教授によるNHK調査の二次分析ですが、改めて結果概要を拝見したところ、更年期症状に対する職場での取り扱い方に関する希望として、男女ともに「症状や対処法について理解できる研修」を希望される方が最も多いという分析結果が出ていたようです。また、同じ調査で、職場や国の支援制度に関する希望として、女性では「有給休暇や生理休暇を使いやすい職場環境の整備」、言い出しやすい職場環境の整備というお話もあったかと思いますが、それがトップになっております。こうした調査結果は、ポピュレーションアプローチによる対策の重要性を示唆するものではないかと思うのですが、この点についての冨髙構成員のお考えをお聞かせいただければと思います。よろしくお願いいたします。
○髙田座長 それでは、冨髙構成員、お願いいたします。
○冨髙構成員 回答に不足がありましたらご指摘いただければと思います。まず、産業保健と健康経営について、安衛法は、労働災害防止のため、労働者の安全と健康の確保とともに、快適な職場環境の形成促進を目的としています。労働者個人の健康確保だけではなく、プレゼンティズム、アブセンティズムによる職場全体への影響を防ぐという点が重要だと考えており、これは一般健診の目的にも合致するものと考えます。健康経営は、労働者が健康であることは企業にとってもメリットがあるという視点で、上乗せでやっていく企業も十分あるのではないかと考えます。中小企業を中心に健康経営の推進が十分にできていない企業もあると考えます。健康経営の場合、企業の業績により、実施できる、できないというムラが生じてしまうのに対して、必ずこれは実施しなければならないのが産業保健であると考えております。
 緑内障による労災が実際にあったのかという質問については、今回聞き取りをした中で、実際に緑内障に起因する労災があったかどうかをすぐに具体的お示しすることは難しいですが、今回ヒアリングを実施した職種には、視力の問題により、例えば転倒や落下といった事故が起きた際に、ほかの職種に比べて生死に関わる問題となる職種にも実施しています。そのヒアリングでは、目の疾患が事故につながることについて非常に気に掛かっているという声がありました。生活習慣病について、状態を把握した上でどう対応するかということで、正にいつも鈴木構成員が発言されている事後措置をどうするかということだと考えます。広い意味で事後措置の中には保健指導も含まれるべきと考えます。就業上の措置も必要な場合もありますが、今回の生活習慣病の健診保健指導を組み合わせて実施することで、働きやすさの向上など、効果は一定程度あるのではないかと考えます。
 15ページについて、男女ともに症状や対処法について理解促進するための研修を希望する声が一番多いという質問について、我々の聞き取りの中でも、全体の理解促進が重要という声はありました。冒頭、神村先生から、国民全体の理解促進が必要という主旨の発言もありましたので、これは国を挙げて理解促進に向けた周知活動や、企業における研修に、是非取り組んでいただきたいと思っています。不足があれば、また補足いただければと思います。
○髙田座長 ありがとうございます。鈴木構成員、お願いいたします。
○鈴木構成員 詳細な御回答を頂き、ありがとうございます。その上で、何点かコメントさせていただければと思います。まず、産業保健についてです。前回もお話をしており大変申し訳ないのですが、私どもとしては、産業保健とは、業務に起因して発生する疾病や、業務による疾病の増悪の予防を一義的な目的とするものだと認識しております。この辺りを基軸に据えて検討していくべきではないかということを改めて申し上げたいと思います。
 2点目の緑内障は電力会社のお話ということで、実態がよく分かりました。その意味では、特殊健診の話なのかなと。仮に検討するにしても、一般健診のような全ての業種に入れるべき内容かどうかも含めて検討が必要ではないかと思いました。
3点目です。もしかしたら厚生労働省への御質問になるかもしれないのですが、事後措置というものが、いわゆる就業制限がメインなので、保健指導はそれに入るのかどうか。私としては、この辺りは厳格に解すべきではないかと思っており、厚生労働省にお伺いできればと思います。
 それから、最後の更年期障害等についてです。繰り返しですが、御指摘があったように、会社に言い出しやすい環境をつくることは私も重要だと思います。ただし、一足飛びに問診項目の追加につながるかどうかというのは、やはり慎重な検討が必要ではないかと感じました。以上です。
○髙田座長 ありがとうございます。冨髙構成員、追加はよろしいですか。
○冨髙構成員 労災があったかという質問でしたので、先ほどの事例を挙げたのですが、高齢で働き続ける方が増えてきていることを考えれば、眼科系検査項目の充実は必要ではないかなど、事例に挙げた職種以外に対するヒアリングからも眼科系検査項目の充実を求める意見があったということは、お伝えしたいと思います。以上です。
○髙田座長 ありがとうございます。そうしましたら、事務局から、鈴木構成員の質問についての回答をお願いいたします。
○大村産業保健支援室長 事務局よりお答えいたします。結論としては、事後措置の中に保健指導は含まれないということになります。具体的に申し上げますと、事後措置については労働安全衛生法の第66条の5第1項に基づき行うというように規定があります。他方、保健指導については、同法の第66条の7第1項に基づき行うことになっており、各々別の規定となっております。
○髙田座長 鈴木構成員、冨髙構成員、よろしいでしょうか。ほかに御発言はありますか。よろしいでしょうか。では、次に進みます。
 続いて、議題2「労働安全衛生法における一般定期健康診断の検査項目等に関する社会状況等の変化に合った科学的根拠に基づく検討のための研究」の報告について、森構成員、立道構成員、立石構成員から御発表いただきます。どうぞよろしくお願いいたします。
○森構成員 よろしくお願いいたします。産業医科大学の森と申します。今回の検討会における議論の基盤として、各健診項目の有効性等に関するエビデンスが必要だということで、研究班を構成して検討してまいりました。私が研究代表者で、東海大学の立道教授、産業医科大学の立石教授が研究分担者ということでしたので、本日はこの3名で担当部分を御報告させていただきます。
 分担研究のテーマですが、このスライドにあるように、大きく4項目あります。このうちの2.と3.が各論という形です。2.の現在の一般定期健康診断項目の妥当性に関しては、この中には、例えば血糖とか、血圧とかの動脈硬化リスクと関連した項目が含まれていますが、これらについては特定健康診査と同一であり、第4期の特定健診・特定保健指導の見直しで、つい最近検討いただいており、新しい知見がないということで、今回の検討から省かせていただきました。
次のスライドは、全体の流れ、今のものを流れとして分かりやすくしただけのものです。
 そもそも一般定期健康診断の項目は、何を前提に実施するのかというコンセンサスがないと議論がなかなか進まないと考えています。今回、この研究班でも、その点について、文献も含めて、研究代表者・分担者でコンセンサスを得た上で議論しようということで、最初にその議論を行いました。具体的に、作業との関連で懸念され、事業者によって何らかの対応が取られる必要がある労働者の状況というのが前提の対象になるわけですが、ここにある(1)~(6)の項目が考えられるということになりました。
 その中でも、(1)作業によって疾病が発症するリスクが高まる可能性がある場合、(2)労働者がもともと持っていた疾病が増悪する可能性がある場合、また、(3)当該労働者の疾病が原因となって、疾病がない人に比べて事故による傷害の程度が大きくなる可能性がある場合がまず大前提です。とはいっても、その作業が非常にまれな場合は、その作業を行う人だけを対象とすればいいわけですので、対象となる作業や作業環境で働く労働者の割合が高いことや、評価すべき健康状態が、有病率や発症率が高い健康状態であり、リスク評価や早期発見が可能であるということ、これらの条件を満たした場合が、一般定期健康診断でスクリーニングを行って、事後措置を行うことに有効ではないかという、そのような前提をまず置かせていただきました。その上で、2.の項目に入って、現行の診断項目の妥当性の検討を行いました。
次をお願いいたします。最初の項目は心電図とレントゲンですが、その前に、一般定期健康診断は、これまでずっと行われていますが、その有所見率を年齢および性別で分析しないと、例えばどの年齢から始めるべきかとか、省略をどうするかということが議論できません。ここで示したデータは、全国労働衛生団体連合会の協力を得て、約650万人を対象としたデータを基に出したものです。多くの項目が年齢とともに有所見率が上昇傾向にありますが、グラフを見ていただくと分かりますが、特に聴力検査、貧血検査、肝機能検査には、ただ単に年齢とともに上がっていく以外の特徴があるということを見いだしています。
 次をお願いいたします。このうち、聴力検査は、男性の1000Hzと女性の1000Hz、4000Hzは、ほぼ同じトレンドで、年齢とともに緩やかに有所見率が上昇していますが、男性の4,000Hzだけ明らかに有所見率が40代以降に急上昇しているという結果がありました。これも私たちが余り見たことのない結果でした。この原因については、文献調査を行いましたが、まだ十分に検討されていませんので、今後の検討課題かと思います。各項目の特徴を表すために、仮に有所見率が10%を超える年齢で比較してみると、男性の肝機能検査、男性・女性の血中脂質検査は、19歳以下の分、つまり全年齢で有所見率が10%を超えているという特徴がありました。
 続いて、安静時心電図の検討結果について説明したいと思います。安静時心電図については、文献調査と実際のデータを用いて、所見別にどの程度の割合で要医療判定とされているのか、その率の2つのアプローチの検討を行いました。文献調査では、対象文献としてコホート研究であること、心疾患有病者以外を対象として、その後コホートとして追っていること、安静時心電図の所見の有無を独立変数としていること、健康面の予後を従属変数としていることを基準に文献収集を行いました。条件を満たす文献が全部で31あり、そのうち11が日本人を対象としたコホート研究でした。これらを対象にして、心電図所見ごとに整理いたしました。かなり複雑な表になっていますが、基本的に、多くの所見が、心血管疾患や全疾患死亡のリスクファクターになっているということです。このような所見は、例えば血圧とか糖尿病といった動脈硬化のリスク要因を調整しても、独立したリスクファクターとして有意であることが示されています。また、幾つかの所見については、心臓突然死のリスクと関連していることが指摘されました。
 次をお願いいたします。もう一方の調査で、実際の心電図検査のデータを所見別に、要医療判定率、これは要精密検査とか要医療と判定された率ですが、分析を行いました。3つの大手の健診機関から、1年分の安静時心電図検査の所見と判定区分を入手いたしました。要精密検査又は治療中の判定区分を、要医療措置とみなし、リスクタイプ別にその率を算出しました。要医療措置と判定される率ですが、心血管疾患等のリスク及び心房細動の所見は年齢とともに上昇する傾向が認められ、女性に比べて男性が高いという結果でした。その他の所見は、一部年齢の差がありますが、加齢による明確なトレンドは認められませんでした。また、要医療措置判定の割合は、機関によって少し大きなばらつきが認められました。このことと関連して、心電図の判定方法には、機関によって循環器専門医の関与等の判定プロセスに違いがありました。
 これらの2つの研究結果を示した上で、エクスパートパネルでの議論を行いました。その結果、安静時心電図は年齢層ごとに目的となる疾病を意識する必要があること。若年者については、Brugada症候群やQT延長症候群のような突然死につながる遺伝性疾患を対象とした場合に、雇入時健康診断の機会を利用するなど、最低1回は実施することが不可欠であるが、それ以降の実施頻度については議論が必要である。また中高年では、一定年齢以上については定期的に実施することが望ましい。ただし、事後措置や保健指導につながるような安静時心電図検査の有効な利用法については、具体的な指針の提示が期待されるといった議論でした。心電図については以上です。
 続いて、胸部エックス線検査については、担当の立道教授からお話をお願いいたします。
○立道構成員 東海大の立道です。胸部エックス線検査の目的としては、呼吸器疾患等の一般的なスクリーニング、結核感染の把握とされています。これまでの主たる目的は結核の発見であったことから、結核の罹患率を見てみると、2021年以降は10万人対8.2と10を切り、日本はようやく低蔓延国となりました。届出数を見ていただくと、高齢者が主体となっていますが、20~30歳に若干山があることに御注意ください。また、西日本や関東の一部など、罹患率の高い所もあり、地域差があることが留意点です。
 次をお願いいたします。20~30代に上がっている部分を詳細に見てみると、若年層の結核の届出においては、外国生まれの労働者の割合が上昇し、現在では80%に迫り、この傾向は続くと考えられています。厚労省では、結核高蔓延国からの長期滞在者に対して、入国前結核スクリーニング(JPETS)を計画されていますが、まだ未実施の状態です。また、外国籍労働者の結核は薬剤耐性菌が多いとの報告があり、臨床上、重要な問題となっています。
 次をお願いいたします。労働者の高齢化に伴い、胸部エックス線検査の所見率が高くなってきていますが、他のスクリーニングされる疾患としては、COPD、気管支拡張症、特発性間質性肺炎等があります。有所見等は、エックス線の検査の精度から、COPDがスクリーニングの候補になります。また、2024年からの化学物質の自律的管理において、呼吸器曝露を主とする職場では、一般健康診断の胸部レントゲン検査に一定の役割が期待される可能性があります。
 まとめです。エクスパートパネルを経て、以上のことから、結核低蔓延国にはなりましたが、まだ地域差があること、特に、結核高蔓延国から40歳未満の外国人労働者が多く増加しており、結核に対しては入国前結核スクリーニング制度だけでは不十分の可能性が指摘されており、職域での対策が重要であると考えられています。この点において、配置前健診を含め制度設計の議論が必要であるとの見解です。40歳以上では、精度管理の必要性と、リスクアセスメント対象物健診に関する事項以外に、検査を省略することで利益が得られるという新規の知見や議論はされませんでした。
 なお、法定健診は肺がん検診を目的とはしていませんが、呼吸器疾患等のスクリーニングの範囲では、肺がんの罹患率は60歳で100/10万人という罹患率の高さから、結核に比し、肺がんが発見される数は約5~8倍高いことで重要な疾患であること、肺がん検診については、胸部エックス線検査ががん検診の指針に該当すること、また、現在、全衛連が行っている精度管理事業においては、参加している健診機関では肺がん検診の要件を満たす精度管理がされていることを参考までに御報告しておきます。
○森構成員 次をお願いいたします。健康診断の項目が有効であるためには、精度管理が確実にされていることが前提ですが、このスライドでは、心電図検査と胸部エックス線検査の現行の精度管理上の課題をまとめてあります。あくまで参考です。
 次をお願いいたします。新しい項目です。近年の社会状況の変化や医療技術の進化を踏まえた健診項目の検討を行っています。視機能検査、骨粗鬆症検査、女性労働者の健康支援のための項目、肝機能異常の事後措置としての血小板活用の妥当性、この4項目について、それぞれ研究分担者から報告していただきます。
○立道構成員 眼科を担当している立道から報告させていただきます。現在、視力検査は、業務による視機能への影響を把握する目的で実施されています。近年の転倒災害の急増を受け、視野異常の関与と検診の必要についての検討を行いました。この結果、視野異常が急速に進む例や、下方視野障害を持つ者について、転倒恐怖感や実際の転倒を経験することが認められました。ただし、これらの転倒は高齢者が多く、職場での労災事例として報告されたということは、まだ聞き及んでいません。視覚障害申請の原因の疾患として、就労年齢での発症は糖尿病性網膜症、網膜色素変性症が挙げられます。一方で、緑内障は進行するまで自覚症状がないことが特徴のため、60歳以上で1位になっています。
次をお願いいたします。視野障害を主症状とする緑内障は、40~65歳で2~7%と高い有病率であるという報告があります。しかしながら、受療率が低いことから、集団検診を実施する場合には過剰診断の可能性もあり、緑内障の自然史に関する知見が必要であると想定されます。また業務関連性としては、VDT業務、現在ではICTと言われますが、ICT作業時間と緑内障について、特に近視は緑内障の重要な危険因子であり、ICT利用時間と近視を示す眼軸長が有意に相関していることから、今後、業務関連性を考える上では、成人期以降にICT作業と眼軸長の延伸に関する研究の集積が必要と考えます。
 次をお願いいたします。ここで、緑内障に対する眼底検査の精度についての検討結果を示します。眼底検査において、非眼科医、眼科非専門医、眼科専門医の3群では、緑内障の読影精度が有意に異なること、特に近視眼においての読影には熟練が必要であると考えられています。今後、世界的に近視の有病率が高くなることが懸念されており、近視が多い日本においては重要な公衆衛生課題と考えています。
 次をお願いいたします。まとめです。視野障害は転倒との関連を認めましたが、転倒全体において視野異常がどの程度寄与しているかの割合についての知見はありませんでした。ただ、本人が視野障害を自覚することで転倒防止に役立つと考えられています。緑内障に対する集団検診については、現時点で国際的には推奨されていませんが、一般健康管理として普及・啓発することは必要と考えます。法定健診の枠組みで考えると、視力のみで視機能を判断するのは、業務上必要な労働者に対しては十分とは言えず、視野障害を検出する眼科検査を考慮する必要があると考えます。ただし、その前提として、視野障害に対して過剰な配慮による就業機会の損失を防ぎ、一方で労災や他害事故の発生リスクを低減するために、視野障害の部位や程度による適切な就業配慮についての知見の集積と、社会的コンセンサスの形成が必要なことが挙げられます。業務関連性についても、ICT作業に関する研究のエビデンスの集積が必要と考えられています。現在、一般に普及している眼底検査においては、読影や判定に関する精度管理の問題とともに、実施する対象年齢と実施間隔の問題等のオペレーションに関する研究知見の集積が必要であると考えます。また、近視眼の判定精度については、精度を上げても3次元で評価すべき乳頭所見を2次元の眼底検査で評価するには限界があるのではないかということが留意点として挙げられていました。眼科は以上です。
○立石構成員 骨粗鬆症検診に関しまして、産業医科大学の立石から御報告させていただきます。女性の社会進出と労働人口の高齢化が相まって、骨粗鬆症を抱えながら就労する女性の増加が懸念されています。そのような労働者を守るために、骨粗鬆症の検査に注目が集まっています。まず骨密度について、日本における有所見率から整理しようと思います。
我が国における有所見率は、椎体又は大腿骨頸部にて、50代の女性にて13.2%、60代の女性にて22.8%となっています。また、骨折による休業は欠勤したとしても半数は30日以内に復帰するということが言われており、骨折回復後の業務に影響は与えないとされています。
 作業との関連性については、セデンタリーワークという座りがちな作業よりも、ふだんの運動習慣のほうが関連性は高いというようなことが示唆されています。重量物作業は変形性関節症を誘発する可能性があるということが記載されておりましたが、エビデンスレベルとしては低いものしかございませんでした。また産褥女性のうち低体重の者に関しては骨密度が低いというような論文が幾つか報告をされておりました。
 次のスライドをお願いいたします。作業関連疾患について整理いたします。夜勤と骨粗鬆症の関連性について、疫学結果については関連性ありのものとなしものが混在しておりましたが、関連があるという論文のほうが多く見られていること、また生物学的検査において、骨代謝のマーカーが夜勤による影響が見られやすいということから、夜勤も骨粗鬆症に影響を及ぼしている可能性が十分高いのではないかということが考えられます。
 また転倒について、骨粗鬆症は転倒の独立した因子であるということがほぼ確実であると言われています。高齢者は転倒リスクが上昇するということからも、転倒防止という点からも注視すべき疾患であると考えられます。一方で、転倒と骨粗鬆症との関連性について、業務がどのような点に媒介するかに関して記載されている論文は見いだすことはできませんでした。
 次のスライドをお願いします。骨粗鬆症の日米英のスクリーニングの状況を比較いたしました。日本の地域健診で行われている健康増進法での検診においては、40歳以上の女性に5年ごとに行われています。アメリカでは65歳以上の女性が実施とされています。イギリスでは50歳以上のハイリスクの男女、若しくは65歳以上の女性が対象となっておりました。一覧表を記載しております。スクリーニングの種類としては、主に3種類ありまして、DXAと呼ばれるレントゲンによる撮影がゴールデンスタンダードであること、そして質問肢として実施されるFRAXというもの、QFractureというもの、そしてレントゲンを用いたMD法、主に踵骨の超音波で測定するQUS法という検査方法があり、それぞれ様々な取組でやられております。アメリカではスクリーニングとしてはDXA、FRAX、QUSが標準であること、イギリスではFRAX、これはレントゲンを用いないFRAXで、質問紙で行われるというものが使われておりました。
 このようなことを踏まえまして、エクスパートパネルから以下のような意見が得られております。1つ目は、日本人の有病率より、対象年齢は50代以上が妥当ではないか。2番目といたしまして、若年者においてはBMIの結果をもって精密検査で対応することができるので、50歳未満に関してはそのような対応ができるのではないか。検査の間隔については5年に1回ぐらいが妥当ではないかということです。検査の項目としては、QUSやFRAXなどが適切ではないかということです。ただし、QUSに関しましては、精度管理が非常に問題となるというようなことが指摘されました。さらに、作業関連疾患としてとらえるには、少しエビデンスが不足しているので、更なるエビデンスの集積が必要ではないかということが指摘されました。
 また事後措置として、夜勤は少し影響がある可能性があるということで、夜勤の禁止や骨折予防のための肉体労働の禁止などというようなことが想定されますが、一方で労働者の権利を阻害する行き過ぎた行為になる可能性があり、安全配慮義務の範囲を明確化する必要があるのではないかということも指摘されております。
 あと、要精密検査になった場合、精密検査ができたという、少し普通のレントゲンではない、かなり大きめな機械のレントゲンが必要で、日本全国津々浦々の労働者が精密検査を受けるというようなことが少し難しい可能性があるのではないかということも指摘されました。骨粗鬆症に関しましては以上です。
 続いて、女性の健康管理に関して説明させていただきます。月経困難症、月経前症候群、更年期などの有病率に関しましては、お示ししているとおり、年代ごとに差異がありますので、どれくらいということはなかなか言えませんが、いずれにしてもどの疾患も10%から40%くらいあるということが、様々なデータ等で示されておりまして、女性の中で普遍的な課題であるというようにも言えるのではないかと思います。更年期症状が仕事に影響を及ぼすと回答している者は半数程度いる一方で、症状について周囲に内緒にしたいと思う方々も、20%強いるというような、センシティブな課題であるということも留意しなければならないということが、私たちの検討からは出てまいりました。
 次のページをお願いします。月経困難症や更年期障害、月経前症候群について、様々な質問紙が開発されており、真ん中に記載されていますが、更年期障害で大体10数問ぐらい、月経困難症で40数問ぐらい、月経前症候群については8問、24問というようなものがあります。お示しのとおり、質問数がかなり多いというものがほとんどです。作業関連疾患としての論文の検索をいたしましたが、夜勤は女性の健康に影響を及ぼす可能性が高いのではないかということが想定されました。また、セデンタリーワークは月経困難症との関連性が1論文、更年期障害との関連性が1論文見いだすことができましたが、論文数としては少ないものでした。スクリーニングとして月経困難症、月経前症候群、更年期障害について、様々な国のガイドラインを探しましたが、見い出すことはできませんでした。イギリスの平等人権委員会等では、更年期障害を含む女性の健康管理に関しては、障害の程度が高度であれば、企業による合理的調整の義務がある可能性があるのではないかということが、2024年の2月に提言されるというようなことになりました。英国規格協会によるガイドラインでは、職場における擁護者の育成や、職場風土の醸成、必要な配慮が得られる仕組みなどが記載されておりましたが、これらは企業と仕事の両立支援で議論されている内容とほぼ類似しておりまして、ここの中にもスクリーニングに関しては、記述はされておりませんでした。
 それでは次のスライドをお願いします。女性の健康管理に関するスコーピングレビューでは、作業環境の変更、情報啓発と職場トレーニング、柔軟な業務調整、追加休暇、ポリシーの明確化、施策決定への女性の参加などが議論されていましたが、スクリーニングについて記述されている論文が、スコーピングレビューでは検出されていないというようなところでございました。
これまでの検討を踏まえた上で、女性の健康管理について、エクスパートパネルの先生方と議論した結果、以下のような対応が考えられるのではないかということが検討されました。検診するのであれば、年齢は月経開始以降の全ての女性が対象になるのではないか。検査のタイミングは必ずしも月経のタイミングによらず、思い出し法を利用することで、検診のタイミングでもできるのではないか。ただ、実施するのであれば、質問数が多過ぎることや、質問紙のスコアが必ずしも重症度を示すというものではないことから、スクリーニングに適さない可能性が十分にあるということを理解し、職場に知られたくないという労働者も存在していることから、質問数としては2問くらいが適切ではないかということで、例えばということで、「職場に困っていることがあるか」とか、「相談したいことがあるか」みたいな問題がいいのではないかというような御意見がありました。労働安全衛生法による一般定期健康診断で実施する場合、労働者の権利の保障や事業者による不利益の取扱いに注意が必要であること。適切な配慮が得られる仕組みが必要であることから、両立支援に類する内容である可能性があること。作業関連疾患として夜勤やセデンタリーワークは可能性があるということは示唆されましたが、就業制限を掛けることの不利益可能性について十分な検討が必要であること。あと、啓発や管理職教育などの周辺整備、産業保健職などの教育も必要であるということ。また、更年期障害等に関しては、対応できる医療機関に関して、必ずしも全ての医療機関が対応できるというものではないので、医療機関のキャパシティを増やすというような啓発活動も併せて必要なのではないかということも御指摘されました。以上です。
○立道構成員 次に肝機能検査について発表させていただきます。肝機能検査は、肝機能の早期把握、増悪防止のために実施されてきました。導入された1989年当時は、活動性ウイルス性肝炎、アルコール性、有害物質による肝機能障害の早期発見に利用されてきましたが、この30年に疾病構造が大きく変わりました。肝機能異常は、脂肪肝が主体となりましたが、その一部に脂肪肝炎から肝線維化を生じ、肝硬変、肝がんへと進行する肝臓疾患としてだけでなく、広く代謝性疾患と関連し、肝臓の線維化が脳血管疾患の独立した危険因子として注目されています。
 昨年の米国肝臓学会からは、脂肪関連疾患(SLD)という新しい概念が提唱されました。それを受け、日本肝臓学会では、2023年に奈良宣言として、ALTが30を超える場合は、かかりつけ医への受診が提唱されました。しかし男性では30%近くの労働者がこの基準に該当する場合があります。
 一方でALT、ASTと血小板値から、FIB-4 Indexが考案され、肝臓の線維化マーカーとして、特に陰性的中率の高さから、肝臓の線維化が否定できるという有用性が示されています。この血小板値を利用することにより、事後措置の必要性の有無について、正確な判断が可能になると考えられています。
 ここで現行の法定項目には、貧血検査としてヘモグロビン、赤血球数が実施されており、現在の測定機器では、血算一式として血小板値が自動的に測定されていますが、一般定期健康診断の法定外項目とのことで、あえて利用されていないのが実態です。コロナ禍以降の労働環境の変化により、通勤等による身体活動量の低下が懸念されており、脂肪関連疾患は今後更に重要になると考えられていること、また血小板値そのものを加えたことによる事後措置への影響は、一般労働者ではほぼ認められないこと。これらの結果から、この血小板値を活用したFIB-4 Indexにより、事後措置が必要な労働者を適切にスクリーニングできることで、医療機関受診という労働時間損失を大幅に軽減できると考えられます。このような項目は、後ほど提示される産業医等の意見に基づき、労使が合意した場合に、健診項目として追加することができるような、法的な枠組に入る項目の候補であると考えます。
○森構成員 最後の項目としては、作業関連疾患を予防するための健康管理に関する海外情報の収集です。対象として、ヨーロッパ諸国における労働者に対する健康診断の実施状況を調査しました。ただし、極めて限られた時間と制約の中での調査のため、調査結果に限界があることを御理解いただければと思います。
まずフランスですが、全ての労働者に対して24か月ごとに1回、健康診断を受けることを原則としております。ただし、特定の業務上の危険がある労働者、特殊な健康状態にあるような労働者には、この頻度を調整することができることになっています。また、健康診断の項目については、標準的項目を設定した上で、産業医の判断で項目を追加することになっています。ドイツでは、義務として実施される健康診断は、特定の危険や負荷にさらされた労働者が対象となっています。これについてはガイドラインがありまして、それに基づいて行われておりまして、調べた限りでは、46のガイドライン、Gガイドラインと言われますが、出されておりました。イギリスでも義務として実施されているのは、特定の危険な業務に従事する労働者に対するものです。オランダでは、使用者は労働者に対して、労働協約に基づいて雇用期間中に定期健康診断を実施する義務があります。健康診断項目は一律に決まっているものではなく、仕事の内容などに応じて、労働協約や就業規則などで内容と頻度を決めることができることになっています。一方でこの健診は労働者の受診義務にはなっていないということが特徴であります。
 これらの結果をまとめると、ヨーロッパでは、事業者に課している労働者に提供する健康診断は、業務と関連した健康影響や職務適性の評価に限定されていました。ただし、フランスではその対象者が全ての労働者になっていること、ドイツでもその対象者の業務の範囲は広くて、健康診断の項目も、ガイドラインに基づくも労働者の状況や労働協約に基づくなど、事業者又は労働者ごとに設定する自由度が高い状態でした。
 日本では、一般健康診断を基本として、項目を法律で細かく決めて、全ての労働者をカバーして、職務適性の評価をもらうという、それに基づいて就業の措置を行うという方法を取っております。つまり、ヨーロッパ諸国とは戦略そのものが大きく違うということですので、その2つの項目だけを比較するというのはナンセンスかなと思っております。ただ、ヨーロッパでそのようなアプローチが可能な背景には、労働者の健康への配慮に対する事業者責任を明確にした自律的労働衛生管理が定着していることが背景にあります。また、ヨーロッパでは、このような健診は基本的にはその事業所の産業医が実施することが多くて、その産業医は産業衛生の専門医レベルにあることが基本であって、ばく露状況や労働者の実状に合わせて対応する能力があることが挙げられるのではないかと考えております。
 最後のスライドは、以上のような研究班の結果を基にした全体の項目で、主に4点を挙げております。一般健康診断の項目は、多くの労働者が従事している作業や作業環境と関連する何らかの影響があることを前提に、一般に広く存在する疾患であり、特定の検査によって健康問題の有無が評価できる場合に限定して実施すべきではないかと考えました。既存の項目でも、適切な精度管理が行われることが、有効な健康診断の実施条件であるということも確認する必要があります。血液検査等の省略は、性別や年齢の有所見率の違いをよく理解をして、勘案して、きめ細かく検討される必要性があると考えます。ただし、特定の作業に従事する労働者に健康障害リスクが高いことが想定される場合や事後措置の最適化を考慮に入れて、産業医の意見と労使の合意を前提に、労働安全衛生法に基づく一般健康診断の枠組みの中で、法定項目に健康項目を追加して実施できるような、多少の柔軟性をもたらすような法的な枠組みの検討が望ましいのではないかと考えております。ただし、一般健康診断、現行の項目以外にも、実践上の課題がかなり存在するために、この右側にあります1.から4.の項目ですが、継続的な検討と対応が必要だと考えております。
以上、研究班の全体の考察でした。ありがとうございました。
○髙田座長 資料3に基づいて、森構成員、立道構成員、立石構成員から非常に細かく、いろいろな知見を発表していただきました。ありがとうございました。また、最後に、一般健康診断の項目における論点と、今後の研究上の課題についてもおまとめいただきました。時間が押しておりますけれども、先生方の発表について、御意見や御質問がありましたら挙手いただきたいと思います。まずは会場から。亀澤構成員、お願いします。
○亀澤構成員 森先生、立道先生、立石先生、御説明ありがとうございました。2点申し上げたいと思います。まず、最後に全体の考察で、適切な精度管理が重要という話があり、そのとおりだと思っております。全衛連では検査体系の項目と画像系の項目について、合計5項目の検査で精度管理を実施しております。16ページにも実効性などをコメントしていただいていますので、1点目は、胸部エックス線検査の精度管理の状況について、少しコメントをさせていただきたいと思っております。
 5項目の精度管理事業を行っておりますけれども、胸部エックス線に関しては、昭和56年に制度を開始して今に至っております。現在、令和5年度の参加施設は、会員以外も含めて364施設です。数字的には若干少なそうですけれども、その364施設で実施している胸部エックス線検査の数は、住民健診も僅かに入っていますが、それも含めて約2,200万人をカバーしております。大規模施設も参加しておりますが、撮影枚数でいきますと年間1,000~1万枚という小規模施設も参加しておりますので、大規模施設でないと参加できないという精度管理の状況ではないと思っております。精度管理の状況により、良い方から順にA、B、C、Dという評価をしております。CやDは悪いほうで、平成の初期にはそういう所もありましたが、その後、だんだん良い評価の施設が増えており、令和5年度の評価では、A施設が約9割となっております。参加施設も増え、参加施設の認識が非常に精度管理も良くなってきている現状にあることを、まず1点目で御報告申し上げたいと思います。
 2点目は、30ページにあった血小板値の活用のことです。これは私どもの会員全てに確認したわけではないのですけれども、ここで御発表があったように、健診機関では自動血球計算機に掛けることが多いため、自動的に血小板値のデータを把握することは可能です。しかし法定項目にないので、報告されていません。ただ、私がヒアリングした健診機関のトップの方からは、一定以上の異常値があれば報告するということもやっている状況にあり、この値については、非常に関心を持っている健診機関が多いということを御報告申し上げたいと思います。報告する場合、血球検査項目に血小板値を記載する箇所を増やすことがありますけれども、健診機関としては余り大きな手間ではないという話を伺っております。血小板値の報告については、先ほど立道先生からお話があったFIB-4 Indexの算出が可能となりますので、大いに有用であるほかに、血液の病気は血小板値の減少から始まることが多いので、報告できれば早めに疾患に対処できるメリットがあるのではないかという意見がありましたので、紹介したいと思います。以上です。
○髙田座長 御発言、ありがとうございました。鈴木構成員、お願いいたします。
○鈴木構成員 三人の先生方、研究成果を御発表いただきありがとうございました。私からは胸部エックス線検査についてです。14ページの「結果とエクスパートパネルを経ての考察」の1)「40歳未満の結核高蔓延国からの外国籍労働者を対象とした結核蔓延防止の必要性」についてです。こちらの考察というのは40歳未満で、かつ日本国籍の労働者を中心とした職場においては、胸部エックス線検査を実施する意義は乏しいという御示唆であるという理解でよろしいかどうか、質問させていただければと思います。よろしくお願いいたします。
○髙田座長 質問について、立道先生から御回答をお願いします。
○立道構成員 40歳未満の結核の7割、8割以上は、ほぼ外国籍の方です。そのため、日本生まれの若年者においての結核のスクリーニングの必要性は、現時点ではないと思います。ただ現在、同じ職場に外国籍の方がおられる環境が非常に増えてきています。これは特定の製造業だけではなく、IT、あるいはサービス業を含めた労働者一般の中に、40歳未満の高蔓延国からの労働者が含まれているという実態からすると、どのような制度設計で結核蔓延を予防するかという議論が必要であるという意味です。
○髙田座長 鈴木構成員、いかがでしょうか。
○鈴木構成員 よく分かりました。ありがとうございました。
○髙田座長 それでは増田構成員、お願いいたします。
○増田構成員 増田です。貴重な知見の御紹介をありがとうございました。先ほどの資料1、資料2の議論でもありましたが、労働安全衛生法に基づく一般健康診断は、事業者が実施すべき健康確保措置の範囲を定める主要な決定要素になるかと思います。健診結果は事業者が把握した上で措置を講じなければならないという性質上、いたずらに健診項目を増やすことは、事業者の責務を増やすこととなるとともに、労働者が従事できる業務範囲や就業機会の減少という不利益にもつながりかねないと思っております。したがって、健康診断には疾病スクリーニングという側面もありますが、本来の目的は適正配置、就業措置のための基礎資料という位置付けである以上、健診項目は適切な範囲にとどめるという視点が重要かと思っております。
 一方で「女性版骨太の方針」等で示されたように、社会的な要請で健診項目を追加するという話が出てきています。その前提で議論するのであれば、追加が求められている項目は健康増進的な位置付けのものも多いかと思いますので、事業者による健診事後措置を必ずしも必須としないといった位置付けにするのも一手ではないかと、お話を聞いていて思いました。例えば、2008年に健診項目として追加された腹囲検査というのがあります。あれはその結果のみをもって事後措置を実施しなくてもよいと、行政通達で明示されていたかと思います。「女性労働者の健康支援のための項目」というのが検討項目にあがっておりますが、それについては例えばストレスチェックのように事業者に対して実施は求めるけれども、労働者に受検義務は課さないというのを準用して、申告したくない場合は未回答でもOKとするといった具合に、会社に機微な情報を知られたくない女性労働者への配慮なども検討しておくとよいかと思います。冨髙構成員の発表資料にも、そのようなくだりがあったかと思います。
 また、気になる回答があった女性労働者についても、必ず就業措置を講じることを求めるのではなく、過去に立石構成員から意見があったと思うのですが、両立支援に準じた枠組みでの対応を促すといった具合に、事後措置を一律に実施してしまわなくてもよいようにしておくのが、円滑な運用や普及につながるのではないかと思います。
 あと、先ほど御紹介いただいた資料の18~21枚目の眼科検査などについては、判定が担当医の技量に左右されるという限界があるということですから、健診項目に積極的に導入するというのは、慎重にやるべきかと思います。労働者の不利益に直結しかねないという観点です。
 22~24枚目は、転倒災害防止という観点で重要課題になっているのですが、それをあまり前面に押し出し過ぎますと、骨密度が低いあるいは改善が認められない労働者、特に高年齢の女性労働者の就業機会を損ねてしまうことにつながりかねないという負の側面も認識して議論すべきかと思っております。
 そして25~27枚目の女性の問診項目について、スクリーニングの有効性・妥当性という観点からは、自覚症状が先行する疾病や症状の検査をわざわざ導入するのは意義が乏しいと思われます。その観点からも、女性労働者の健康支援のための問診項目は、資料にもありましたが、健康診断ではなく、むしろストレスチェックの項目として位置付けたほうがマッチするのではないかと思いました。
 あと、もう1点だけすみません。14枚目の胸部エックス線の所です。外国籍であることに重きを置いて、結核健診の対象というのが独り歩きしないようにする必要があるかと思いました。そうしないと、外国人差別や偏見助長といった問題を惹起しかねないかと思います。そもそもJPETSはまだ開始されていません。出入国在留管理庁で実施していないものを職域の健診で実施するというのは、先走り感が否めません。まずJPETSといった取組をやって、それでも効果がない場合に、それを補完するために健康診断で何かできることがないかという流れで検討すべきと考えましたので、その点をコメントさせていただけたらと思いました。以上です。
○髙田座長 御発言、ありがとうございます。それでは神村構成員、お願いします。オンラインの構成員の方には大分お待たせしておりますので、その次に御指名させていただきます。
○神村構成員 神村です。詳細な研究の御発表をありがとうございました。最後のページにあったように、やはり精度管理は大変重要だと思いますし、精度管理の中には読影の精度なども入っていると思います。ただ、このような健診の結果をどうやって生かしていくかということを考えますと、実際の現場では経時的な変化を多く見ており、そのとき1回の健診結果だけで判断することは、ほぼないと思っておりますので、健康診断が経時性を持っているところが、非常に重要であると私どもは考えております。
 安全配慮義務というのも、事業者には大変な負担になると伺っております。ただ、実際に労働者の健康を守るには、基本的な健康情報があってこその安全配慮義務だと考えております。基本の健康診断の結果、これまで積み重ねてきたものをちゃんと維持することは、私どもも求めております。費用面あるいは手間ということに着目して、これまでの健診項目を削減の方向にということには、私どもは反対しております。労働者が健康に働いていただくためには、事業主が労働の現場、労働者に対してこのような健康配慮をしているというアピールこそが、CSRではないかと感じております。
特に、高齢者はこれまでの健康診断でその結果を十分に生かしきれてこなかったところに、現在の高齢者の健康状態があるわけです。ですから、ここについては、若年のときからの健康状態の積み重ねについて、もっと関心を持つべきです。節目年齢での健康診断の実施項目はきちんと維持すべきですし、節目年齢の健診項目についての結果を生かした保健指導に結び付けるような方策ができないものかと考えております。このようなことで、なるべく全国民に納得していただけるような健診の生かし方をしていただくように、事業者のほうでも御協力いただければと思っています。
 また、女性にとっては、これまで就労の現場で女性の健康について余り取り組んでいただいていなかったところに、積極的に関心を持っていただくという基盤を世の中に知っていただくことが大変重要です。しかし、増田構成員もおっしゃったように、私もストレスチェックと同様の扱いで、問診項目を少ない項目でというのが妥当ではないかと思っております。以上です。
○髙田座長 ありがとうございます。
○森構成員 研究班としても、神村先生がおっしゃったように、経年変化をどう見るかというのは、経年変化をもとに総合判定をして、どのような対応をしていくかということを判断できるということも、本来、健診全体の精度管理の一部だと考えており、大変重要だと思っています。ですからお考えは全く一緒です。
 それから、法定項目としてどうすべきかという話は、かなり限定的に考えたとしても、先ほどのFIB-4 Indexの話にもあったように、それをいかに生かすかというのがすごく大事なことです。その中で、健康管理がやりっぱなしにならないように、受診した労働者にとってプラスになるように、その後、きちんと事後措置ができる体制にしていくということだと考えております。
○髙田座長 ありがとうございました。それでは、お待たせしました。まず荒井構成員が挙手されていたと思いますので、御発言をお願いいたします。
○荒井構成員 荒井です。今日の御発表、お疲れさまでした。非常に詳細なデータを集めていただきまして、ありがとうございました。1つ私が欠けているかと思ったのは、費用対効果の視点がないのではないかということです。幾ら優れた健診で病気を見つけることができたとしても、無尽蔵にお金を使うわけにはいきません。費用対効果で、しっかりと1人の方を見つけるために、どれぐらいまでのコストが許容できるかという視点は必要かと思います。是非ともそういった分析をしていただきたいと思いました。それが1点目です。
 2点目は心電図の件です。40歳以上で毎年1回は推奨するという結論だったかと思いますが、私は、これに関しては明確に反対しておきたいと思います。理由としてはコストの面が1つです。そして実際に現場で起こっているのは、偽陽性が非常に多いのです。特にST-T変化が非常に多くて、それはほとんど病的な意味はないけれども、心電図異常として引っ掛かってきて、現場を混乱させているという現実があります。例えば、40歳の方で症状もなく、体重も正常で、腹囲も正常で、血圧もコレステロールも糖尿病もない、血糖も正常という方に、毎年心電図をとる意味は全くない。それはリスクに応じた形で、心電図に対する検査を推奨するようにしないと、幾らお金があっても足りない。
 レントゲンも全く同じです。間接、直接の別とか、あるいは健診に引っ掛かった場合に、精密検査に回ってCTを撮るか、放射線のばく露によるリスクも含めて、しっかりとアセスメントをしなければいけないと思いますので、単に健診で引っ掛かって病気が幾つかあってということではなく、全体的なベネフィットを考えた分析を是非ともお願いしたいと思います。以上です。
○髙田座長 ありがとうございます。
○森構成員 心電図を40歳以上でどのような頻度でやるかというのは、多分40歳代、50歳代、60歳代で違ってくる可能性もありますので、これは皆さんで議論すべき話だと思います。ST-T変化で精密検査を受ける必要がある病気であるかどうかというのは、先生がおっしゃったとおりですが、このような非特異的変化が動脈硬化疾患の追加的なリスクであるということから、そのような所見があった場合には、例えば血圧が高い人などと同じように、より強い保健指導をするかということが有効ではないかと考えています。非特異的変化が、独立したリスクであるとの知見が、実際の現場ではほとんど生かされていないので、先ほどお話したように、どう利用するかについて一定の指針のようなものが要るのではないかというのが、検討した結果出てきたということです。以上です。
○髙田座長 荒井構成員、いかがでしょうか。よろしいでしょうか。
○荒井構成員 先ほどお話のあったように、心電図については経時的な変化は大事だと思いますので、経時的変化、心電図変化だけではなく、体重やほかのリスクファクターの経時的な変化も併せて、適切な間隔というのが出てくると思いますので、やはり間隔というのはトータルに考えていく必要があると考えています。
○髙田座長 ありがとうございます。続いて吉村構成員、お願いします。その次は、また会場のほうに戻ります。
○吉村構成員 吉村です。先生方、詳細な御報告をありがとうございました。大変な労作だと存じます。私は運動器の疫学が専門なので、骨粗鬆症について、少しコメントしたいと思います。24ページの内容を中心にしたいと思います。
 今、健康日本21の骨粗鬆症検診の目標15%などが取り上げられて、骨粗鬆症検診というのはホットな話題となってきております。そこで厚労省健康課が中心になり、骨粗鬆症の検診を新たに考えるということで、研究班が立ち上がっております。そこでは今の検診のやり方を変えるという形で、議論が進んでおります。ですから、できればその意見がまとまったのを見て、このような健診の項目も考えたほうがいいのではないかというのが、まず1つ目の私の意見です。私もその研究班に入っております。50歳以上の女性で低BMIについては非常に重要な項目で、大事だと思います。(4)に「QUSまたはFRAX」と書いておりますが、QUS、超音波の簡便性は私も認めるところですが、QUSについては、骨粗鬆症の治療のガイドラインなどでも、QUSは診断には用いないということが書かれており、やはり精度に多少の疑念があると言われておりますので、そこは少し考えるべきではないかというのが、私の1つ目の意見です。
 もう1つは、私は骨粗鬆症の検診は女性のみということに、別に反対するわけではないのですけれども、基本的には、男性の骨粗鬆症で骨折した人は、女性よりもずっと予後が悪いというエビデンスがあることは頭に入れておくべきではないかと思います。それからDXAが日本中で受けられる環境にないというのは、確かにそういう部分はありますが、実はDXAの台数は、日本は世界でも有数のDXA国で、ただクリニックでは、手首のDXAが多いのは事実です。精密検査では体幹、腰や大腿骨頚部を撮ることが勧められますので、そのような環境整備を進めていくべきだと言われていることに異論はありません。以上です。
○髙田座長 ありがとうございます。ただいまの御発言について、立石先生、いかがでしょうか。
○立石構成員 検診という視点については、おっしゃったとおりかと思います。ありがとうございました。
○髙田座長 それではお待たせしました。宮本構成員、お願いいたします。
○宮本構成員 非常に詳細な研究をありがとうございました。まず、先ほどお話があったかと思うのですけれども、毎年陽性者が出てしまうことがあるというと、前回も申し上げたのですが、感度を優先してチェックをしてくると、特異度がおざなりになってきているという、経年変化を見るというのも、もちろんそれだと思うのですけれども、そこを重視して、無駄な検査をしない、あるいは無駄な事後措置にならないということに注意をしていったほうがいいのではないかと思っております。
 事後措置で保健指導が含まれないと、先ほどおっしゃったのですが、労働衛生のしおりを見ると、健康診断の目的というのは、就業上の管理あるいは適正配置を調べるということが1つあるのですけれども、もう1つは、健康状況の経時的変化を含めて総合的に把握した上で、労働者が常に健康に働けるよう、保健指導、作業管理あるいは作業環境管理にフィードバックしていかなければならないということが書かれていますので、そういう意味では法律になってなかったとしても、それぞれの法規で違う所に書いてあったとしても、まずは経時的に調べること、総合的に把握することとして、保健指導や作業管理、作業環境管理にフィードバックすることというのが書かれていますので、それは確実に意識をしておくべきことではないかと思っております。
 一方、森先生たちの研究の7ページの考察に、「各項目について医師の判断での省略を検討する際には」とあります。前回の5、6年前の検討でもあったのですけれども、産業医が全体結果を見て、次の省略を指示することは是だとなっていました。今、ここら辺が強く出ていない気がするのです。もちろん、健診当日に問診等の結果から健診機関のドクターが、やはり省略しないと判断することは当然ありですし、その前提で前年の結果から、産業医が省略可能と判断する。これには合理的にやらないといけないと思うのですが、いろいろな複合リスクとそのレベルなどの考え方がありますから、ちょっと単項目が施設基準で有所見だったとしても、そこはもう毎年は要らないと判断することもできるだろうと思うのです。
 そう考えると、森先生の7ページにもありましたが、有所見率が10%を超える所で、例えばそれだったら毎年とか、5~10%だったら1年置きとか、5%未満は5年置きというように、判断をざっくりすることも可能だと思います。ただ、これはもう有所見となると、保健研究会も書かれているように、各施設によって違っていて、データを見ると、脂質と血圧は厳し過ぎるのではないかという感じがあります。その辺は、本当に適正な有所見とは何ぞやと。病院に行って病気のある方の判断基準というのとは、またちょっと違うと思いますので、そういった部分のエビデンスも出していかないといけないのだろうと思います。立道先生がおっしゃったように、GPTで30といったら、とんでもない人数が引っ掛かるけれども、それを特異度を高めるための別の方策があるというのだったら、当然いいと思いますので、こういった研究も進んでくると、健診の特異度が高まってきて適正な事後措置に繋がるので良いのではないかと思った次第です。
 同じデータの有所見のデータを見ると、もう1つ、聴力などは自然現象で上がっているのか、ちょっと分からないのですが、男性が非常に高い。ただ、4,000Hzだと会話音域ではないので、4,000Hzは、検査はするけれど労基署報告の対象にしなくてもいいのではないかと。そうでないと高齢労働者が増えて来ると、非常に高い有所見率になってしまうこともあるので、労基署に報告するのは何のためなのか、その辺も含めてやっていただけるといいのかと思うところです。以上です。
○髙田座長 ありがとうございました。森構成員、お願いします。
○森構成員 前半は同じ意見で、そのとおりだと思います。最後の聴力の件は、私たちもこれを見てびっくりしました。今までこのようなグラフを示したものを見たことがありませんでした。そこで、過去に男女差で高音域が聞こえないような論文があるかと調べたら、最近幾つか出ています。その原因としては、恐らく日本の場合、騒音健診が法律で決められていないので、騒音ばく露の影響が一般健診の結果に一部混じっていることが考えられます。また、同じ年齢でも、動脈硬化は男性のほうが進んでいる傾向があるため、その影響で男性の高音域が聞こえない1つの原因ではないかという研究もあります。ただ、まだ正確に分かっていないというのが、どうも現状のようなので、今後、これはこれでどう扱うかというのは、私の研究者としての興味で思ったところで、そういったことでコメントをさせていただきました。
○髙田座長 続いて岡村構成員、お願いいたします。お待たせしました。
○岡村構成員 心電図の部分で、私は特定健診の見直しのほうで心電図の検証をやっておりましたので、そこからのコメントです。実は、特定健診は2期から3期に適用拡大をしております。ほとんど取られてなかったのを、高血圧と不整脈の疑いがある人は取れということで拡大し、結局、それで問題がなかったので、この4月からの第4期もそのまま動いている状態です。ただ、今回の場合は今普通に全員とっているものをどう絞るかということになると、かなり不利益変更が個々人に発生してきますので、そこは慎重に議論をしなければいけないと思います。特定健診は、取ってない状態から増やしたという動き方をしているので、どこに答えがあるのかというところは、年齢構成とか、先ほど荒井先生も言われたように、ほかの危険因子がどうなっているかなども含めて、どうやったら一番いいかは慎重に議論する必要があるだろうと思います。
○髙田座長 コメント、ありがとうございました。そのほかにありますか。オンラインのほうは、チャットの書込みはありましたけれども、特に御発言ということではないですか。鈴木構成員、お願いします。
○鈴木構成員 宮本先生からの御指摘につきまして、皆様御存じだとは思いますが、事後措置と保健指導のうち、保健指導は「努めなければならない」というところで、一義的には、事後措置がピン止めされている法律であることを前提にお考えいただく必要があるのではないかということを申し上げたいと思います。
○髙田座長 コメント、ありがとうございました。ほかによろしいでしょうか。運営が悪くて、時間が押してしまって申し訳ございません。もう時間がギリギリとなっておりますけれども、議題の(3)の「論点について」ということで、資料4の説明を事務局からさせていただきますので、よろしくお願いいたします。
○大村産業保健支援室長 事務局より説明させていただきます。資料4の2枚目を御覧いただきたいと思います。「第1回、第2回検討会の主なご意見」ということで、「労働安全衛生法に基づく健診の目的等」として、そちらに記載があるとおり、健診の目的、健診の役割、健診項目の対象、健診の要件等ということで、健診の情報取扱い、検討の際に重要視すべきエビデンスについて、御意見を頂戴しております。
 次のスライドを御覧いただきたいと思います。論点案です。本検討会の開催要綱より、検討事項をまとめております。これには3点あります。また、これまでに第1回、第2回、本日お話を伺っておりますが、現時点での論点案ということで、今回の議論を踏まえ、充実する予定にしているものですが、ひとまず論点案ということで、3項目お示ししております。1点目が「女性の健康に関する事項」です。ここには更年期、月経困難症に係る問診について、他、女性の就業率向上に着目した検査項目についてです。2点目が「現行の健診項目等について」です。3点目が「その他労働者の健康確保に必要な健診項目について」です。また今回の検討会は、労働安全衛生法に基づく一般健康診断の検査項目等に関する検討会ということで開催しておりますので、他の法令に基づく健診・検診の項目については、検討対象外とさせていただいております。以上が論点案です。
 続いて次のスライド、「健診項目を検討する際の要件、着眼点案」を御覧いただきたいと思います。平成28年に公表された「労働安全衛生法に基づく定期健康診断等のあり方に関する検討会」報告書の趣旨、また第1回、第2回の検討会でいただいた御意見、さらに健康増進法第9条第1項に規定する健康審査等指針を踏まえるなどして、こちらに示している8つの要件、着眼点案を取りまとめております。
 スライドの4枚目です。本検討会の検討事項の(2)労働者の健康課題の変化を踏まえた一般健康診断の検査項目等については、これを踏まえ、本検討会では新たな健診項目の追加を御検討いただけるのではないかと考えております。こちらの健診検討項目を検討する際の要件、着眼点に御留意の上、今後、御議論いただけるのではないかと考えております。本日の御議論を踏まえ、次回より、事務局のほうで資料等を精査の上、各論点について御議論を進めていただく予定にしております。
 この要件、着眼点案には8つの項目があります。1点目が、検査で分かる健康事象は何か、「対象とする健診項目」です。2点目が、検査で分かる健康事象又は検出可能な危険因子が業務に起因するか、若しくは業務によって増悪するか、「業務起因・業務増悪」です。3点目が、検査によって有所見とされた者に対し、事業者が実施できる事後措置、就業上の措置は何であるか、「事後措置」です。4点目が検査の目的、対象、方法が明らかであるかです。5点目が検査の精度及び有効性、基準値が示されているかです。6点目が検査は巡回健診や対象となる労働者全体に実施可能であるか、「健診の運用」です。7点目が、検査の1件当たりに要する費用を事業者が許容できるか、「検査費用」です。8点目が、事業者が把握する健康情報として許容できるか、「健康情報の把握」です。
 時間の関係で、少し割愛させていただいておりますが、こういった項目に着目して、今後、御検討を進めていただくことになります。私からは以上です。
○髙田座長 ありがとうございます。資料4の論点案について御説明いただきました。時間のない中で、1点だけ確認させていただきたいと思います。この検討対象となる健診項目については、研究班から報告があったものに限られるということでしょうか。
○松岡労働衛生課長 これは議事3の「論点について」ということで、まだ案ですが、「その他労働者の健康確保に必要な健診項目について」ということで、論点案の3つ目の論点に入れているところの範囲を聞いていただいていると思っています。今回、研究班から研究成果を頂いたところですが、ほかにも産業保健における重要な課題があり、今回まだ議論はしておりませんが、今回の資料4の要件、着眼点に沿った資料を用意できるような健診項目の候補がある場合は、我々としても拝見する必要があるだろうと思っております。
 次の第4回からは、もしかしたら論点案について検討することになると思います。その検討をした後で、女性の健康に関する事項の検討を進めていきたいと思っております。そのほかの項目はその後を予定しておりますので、新規のものにつきましては、8月末をめどに、このような要件、着眼点をフィックスしてからということになります。このようなものを満たすような資料と、その概要について整理されたような資料をこちらに御提出いただければ、事務局のほうで整理をして、本検討会の議題とさせていただきたいと思っておりますので、御承知置きいただければと思っております。
○髙田座長 冨髙構成員、お願いします。
○冨髙構成員 1点だけ確認します。示された論点案は前回までの議論を含め記載されているもので、今後、研究班の報告から絞り込むように聞こえたのですが、今日の我々の報告も含めて、論点案を精査頂けるということでよろしいでしょうか。
○松岡労働衛生課長 その通りと考えています。
○冨髙構成員 了解しました。
○髙田座長 すみません。時間がない中での説明で不十分な点があるかと思います。次回、「論点案について」も含めて検討させていただきたいと思います。今、論点案をお示ししておりますので、こちらの資料に基づいて、御意見、御質問等がありましたら、事務局にメール等でお寄せいただければと思います。そちらについては、事務局から御連絡をさせていただきたいと思います。そのほかに事務局から事務連絡はありますか。
○夏井産業保健支援室長補佐 事務局です。本日はどうもありがとうございました。連絡ですが、本日の議事録については後日、御確認を頂きたいと思っております。次回の検討会については、日程が近づきましたら改めて御連絡を差し上げたいと思いますので、よろしくお願い申し上げます。
○髙田座長 それでは、本日はこれにて閉会とさせていただきます。時間が延びてしまって、誠に申し訳ございませんでした。本日はお忙しい中、御参集いただきましてありがとうございました。

発信元サイトへ